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じゅう ぷらす に。

 








ルイスさんという、ヴェルノさんのお兄様が来られたからか、船の中はいつもよりとても騒がしい声が聞こえてきます。


でも嫌な気持ちは微塵も湧きません。不思議なのです。


ちょっと離れた場所ではルイスさん率いる船員の方々とヴェルノさん率いる船員の方々が互いに肩を組み合って楽しそうにお酒を酌み交わしていました。




「おーい。」




かけられた声に視線を戻しますと、見たこともない不思議な物を沢山持ったルイスさんが私を見つめています。


先ほどは珍しい物という言葉に釣られてしまいましたが、今回はそうは行きません。


私はヴェルノさんのペットではありますが心持ちは船員の意気なのです。


例えお兄様であろうとも簡単になびいてはいけないのです。


キラキラと輝いて誘惑している貝殻のネックレスなどはとても気になりますが見てみぬふりです。


プイとそっぽを向きましたら頭上からヴェルノさんのクツクツと笑う声が降ってきました。


見上げれば案の定口元に手を添えて愉快そうに目を細めていらっしゃいます。




「良いのか?気になるんだろ。」




思い切り心の中を見透かされているのです。




「ダメなのです。」


「何がだ。」


「私はヴェルノさんのペットです。だから、簡単に他の人になびいては面子に関わるのです。」




私の言葉に一瞬虚をつかれた顔をし、それから口を開けて大きくヴェルノさんは笑い出してしまいました。


ルイスさんも、アイヴィーさんも、幹部の皆さんも肩が震えていらっしゃいます。


見つめていますと未だ笑いの収まらない様子のヴェルノさんが頭の上に手を乗せてグリグリと撫でられます。


痛みはありませんが押し潰されてしまいそうなので、そろそろ離していただければ嬉しいのですが。


何とか大きな手を退けた私にカラリと笑うのです。




「別に見たけりゃ見れば良い。」


「いいのですか?」


「俺以外の奴について行かねェ限りはな。」


「それは絶対にないのです。私はこの船以外に乗るつもりも、下りるつもりもありません。」




私の言葉にヴェルノさんは良い心掛けじゃねェかと褒めてくださいました。


船長さんに褒めていただけると、胸の辺りがほんわり温かくなるのです。


ご褒美の代わりに差し出されたリンゴのような果物をしゃくりと齧ればほのかな甘みとサッパリとした味が口の中に広がります。


ヴェルノさんの手から食べるという少々お行儀の悪い食べ方ではありますが、美味しく私が食べさせてもらいましたらペロリとその指を舐めました。


ちょっと悪戯っぽく笑ってそんなことをするものですから妙に気恥ずかしいのです。


…最近恥かしいことが増えた気がします。気のせいでしょうか?


記憶の中を探っていた私の目の前にルイスさんが持って来てくださった沢山の不思議なものがガチャガチャと音を立てながら小山を築きました。




「ったく!イチャ付くのも良いが少しは周りを気にしろよ?」


「悪ぃな、こういう性分だ。」




触って良いぞと膝から下ろしていただき、許可ももらったので私はさっそく不思議な物の山へと歩み寄ります。


まず気になっていた大きな貝殻で作られたペンダント。薄い貝殻の表面を綺麗に、かつ滑らかに削って一番上にはチェーンがしっかり通っていました。


閉じていた貝殻を開ければ中には綺麗な押し花が小さな硝子の丸枠の中に納まっているではありませんか。


真っ白ですが光によってキラキラと七色に色を変える貝殻のペンダントは見惚れるほどに素敵なのですが、ヌイグルミの体では大き過ぎる気がします。


次に手に取ったのは小さな小さなナイフでした。


見た目は丸くて少しぺったんこの細長い楕円形の短刀は本来紙を切ったりするものだそうです。


赤地に金と赤、それから綺麗な青色を使って豪華な仕上がりになっていました。気になって刀の刃部分見たかったのですが残念ながら「切れたら危ないわよぉ。」というアイヴィーさんの言葉で中身まで見ることはできませんでした。


それでも外見がとても色鮮やかでしたので観賞していた私にルイスさんが「それやるよ。」とにこやかに言います。




「え?」


「珍しい物だけど俺には必要ないから、欲しいもんは持ってって良いぞ。」


「…本当にいいのですか?」


「男に二言はねぇってな。」




後ろから伸びてきたヴェルノさんの手がぽすんと頭に乗せられます。


さすがヴェルノさんのお兄様、とても優しい方なのでした。


ごそごそと小山を一通り見てから私は短剣と琥珀色の綺麗なペンダントを一ついただきました。


ルイスさんはもっと持って行って良いとおっしゃってくださいましたが、私にはその二つだけで充分でしたので後はお返しすることにします。


あんまり欲がないんだな。などと言われましたが、そんなことは全くございません。


ただお洋服も食事も、何もかも不自由なく与えてもらっているので欲しいものがないのです。


何も困ることなく穏やかに過ごせているだけで幸せ者なのですよ。


いただいた短剣を服の隙間に押し込んでいましたらヴェルノさんがジッとその様子を眺めていることに気が付きます。




「どこに入れたんだ?」


「服の隙間です。」


「…ねェぞ。」




ピラリとスカートの裾を捲って確認する船長さんには流石の私も怒ります。


丸い手でヴェルノさんの顔を叩くとシンと静まり返ってしまいました。


…?


周りを見回してみましたら全員が目を見開いて私を見ています。


何故か少し顔が青いような気がするのは気のせいでしょうか?


ヴェルノさんは顔から私の手を離すと愉快そうに低く笑って、そのまま私を抱き上げてしまいます。




「何しやがる、オラ。」




むぎゅむぎゅと頬を引っ張られたり全身をぎゅぎゅーっと抱き締めてくる船長さんに抗議させていただきます。




「女の子のスカートをめくってはいけないのですよ。」


「別に減るもんじゃねェだろうが。」


「気持ち的にはビックリドッキリで寿命が縮んでしまうかもしれません。」


「あ?人形に寿命もクソも無いだろ。」


「……それもそうかもしれませんね…?」




未だペタペタと短剣を探そうとするヴェルノさんの言葉に納得してしまいました。


アイヴィーさんが「納得するところってソコなのぉ?」と呆れた顔で笑いましたが、私としましてもヌイグルミに寿命なるものがあるのか分かりません。


…あれ、何か話が逸れてしまった気がするのです。


小首を傾げて見上げましたらヴェルノさんが意地の悪い笑みを浮べて私にグラスを差し出します。




「飲め。」




未成年者はお酒を飲んではいけないのですよ、ヴェルノさん。








 

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