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じゅう ぷらす いち。

 






幹部たちが笑っているうちに遠くにポツリと見えていた船が目視できるほどまで近付いた。


ヴェルノは船員に指示をして帆を畳み、自船の速度を落とす。


穏やかな波に乗って近付いて来る船に掲げられた旗は髑髏が描かれ、見慣れたそれは自分のものとよく似ている。


やがて隣にゆっくりと追いついたその船から男が一人ヒョイと飛び移ってきた。


背中まである鳶色の髪に、金の瞳を持つ男はヴェルノの前まで来ると笑みを浮べる。




「久しぶりだなぁ。」




差し出された手をヴェルノは力強く握り返した。




「あぁ、最近見ねェから海軍に殺られたかと思ったぜ。」


「冗談。あんな奴らに負けるなんてありえないっての。」


「そりゃ良かった。元気そうで何よりだ、ルイス。」




ルイスと呼ばれた彼は自身の船に手を振って合図を送る。


そうすれば互いの船から梯子のようなものがかけられ、自由に行き来できるようになった。


船員たちも同士の無事を確認し、確かめ合い、楽しげに話を始める。


そんな姿を眺めていたヴェルノにルイスは気になっていた疑問を投げかけた。




「ところで、その人形はどうしたんだ?」




海賊船長と真っ白なふわもこヌイグルミというあまりにもアンバランスな組み合わせにルイスは苦笑する。


ヴェルノは眠ったままの真白を見下ろし、あぁと溜め息のような返事を返した。




「ペットだ。」


「ペット?って…え、それ生きてんのか?」


「生き物じゃなきゃ飼えねェだろ。」




トントンと手で小さな背を軽く叩いて起床を促せば、ヌイグルミはヴェルノの服に顔をすり寄せながら「…うー…、」と小さく唸る。


嫌がる素振りを見せたヌイグルミをルイスは目を見開いて見つめ、溜め息を零す。


そんなもんも居るんだなぁ。なんてどこか感心した様子で呟いた。


聞き慣れない声に反応したのかピクリと耳が動き、閉じていた赤い瞳がぼんやりと開かれる。


最初にヴェルノを見て、それから酷く緩慢な動きで周囲を見回し、見慣れぬルイスでピタリと首が止まった。


焦点のズレていた瞳がしっかり合わさった途端、ヌイグルミはびっくりした様子で目を見開いた後にヴェルノの腕の中から逃げ出してしまう。


ぼてり。結構な高さを顔面から落下した真白には抱えていたヴェルノも若干驚いていたけれど、あたふたと傍にあった木箱の後ろへ隠れる姿はまさに草食動物の動きだった。


箱の影に入り切らずに耳が出てしまっているのだが恐らく本人は気付いていないのだろう。


赤い瞳がチロリと箱の影からルイスを覗き見て、目が合うとパッと引っ込んでしまった。


妙に愛嬌のあるその動きに先に噴出したのは主人のヴェルノ。


箱の影でモソモソと動くヌイグルミに振り返り腰を落とす。




「おい、隠れんな。」




子どもを諭すような優しい口調でヌイグルミに声をかけたヴェルノにルイスは驚く。


どちらも海賊としてはかなり名を馳せている悪だが、彼が誰かに対してこれほどに優しい声をかけることなど初めて見る光景だったのだ。


主人に言われたからか、箱から顔を半分ほど出してコチラの様子を窺うヌイグルミ。


周囲の幹部や船員たちも苦笑するだけでペットの無礼を気にした様子もない。




「――…真白。」




少し強めにヴェルノが名を呼ぶと真っ白な耳をピンと立てて、顔を上げた。


箱の裏側へ逃げ込んだ時よりも、ずっと早い動きで真白はヴェルノの足に駆け寄り、しがみ付く。




「名前!今、名前を呼んでくださいました!!」


「それが何だ。」


「初めてです!ヴェルノさんが真白って呼んでくれたの、初めてでしたよ!」




ルイスを警戒していたことなど綺麗サッパリ忘れて足元でワーワー騒ぐヌイグルミを抱き上げたヴェルノは呆れた表情で、だがとても楽しそうな雰囲気を滲ませて「くだらねェな。」と言う。


それから真白をルイスの方へ向かせた。


途端にピタリと口を噤んでしまった真っ白なうさぎのヌイグルミにルイスだけでなく、その場にいた全員が苦笑する。




「俺はルイス・クラウザー、小さなヌイグルミ君の名前は?」


「あ…真白といいます。」


「真白か。真っ白だからとか?」


「いえ、もともとそういう名前なのです。」




言いながら真白はマジマジとルイスを見て、それから自分を抱えるヴェルノを見た。


分かりやすい動きにヴェルノが笑いながら種明かしをする。




「ルイスは俺の兄だ。」


「え、え?ルイスさんはヴェルノさんのお兄様なのですか?」


「そう、正真正銘ヴェルノは俺の弟だよ。」




衝撃の事実に少なからずショックを受けている様子の真白を抱え直し、ヴェルノはせっかくだから今日は宴でも開こうと提案し、それは良いと楽しげに承諾するルイスに双方の船員が両手を上げて喜んだ。


置いていかれていた真白も漸く我に返って「宴ですか。」と呟く。


それを耳聡く聞いたルイスがなかなか手に入らない物も幾つか持ってきたと言うものだから、真白の興味は既に‘珍しいもの’と‘宴’に向いてしまう。


さっきまではおっかなビックリだったクセに、キラキラと目を輝かせてルイスを見やるヌイグルミの好奇心の旺盛さと単純さにヴェルノは一度軽く頭を叩いてから笑った。






 

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