断罪イベント365ー第19回 オートクチュール
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
断罪イベント――
それは、王子の命により開かれる「追放劇場」。
今回のヒロインは、黒髪の気高き令嬢・リリアーナ。
王子の寵愛を一身に集め、今宵、婚約者を断罪する予定である。
にもかかわらず――
「おや……」
観衆の目が釘付けになったのは、その*ドレス*だった。
張り詰めた空気の中、リリアーナが、
**純白に輝くドレスを纏って登場した瞬間**である。
「まさか、あれは……!」
「オートクチュール、最新作よ!」
「しかも春夏コレクションに先駆けて……予約特注の一着……!」
ザワつく会場。ドレスに見とれる貴婦人たち。
裾には繊細なレース。
それは職人の手で一本一本糸を編んだ“幻のレース”。
素材は、王都でも流通の限られた“月光絹”。
陽の光で色が変わる魔法繊維で、昼は白金、夜は青銀にきらめく。
さらに、胸元には“天空石”と呼ばれる宝石があしらわれていた。
「ま、まさかリリアーナ様……あのデザイナーの……!」
誰かが声をあげた。
「“天才仕立屋ノエル・ブランシュ”……皇族専属の……!」
貴族たちが息を呑む。
あの幻のデザイナーが手掛けたオートクチュールなど、
**庶民はもちろん、上級貴族でも滅多に手に入らない**。
この場にいるどんな貴婦人も、その一着の前に霞むしかなかった。
リリアーナは微笑み、観衆を一瞥してから王子の横に立つ。
「王子、私はただ、あなたの隣に立つのに相応しい存在でありたいだけ」
王子の頬が赤らむ。
「リリアーナ……君は、まるで天上の女神だ……!」
それを聞いた婚約者令嬢は、顔面蒼白で立ち尽くす。
彼女のドレスは平凡な既製品。
刺繍も色褪せ、靴には泥がついていた。
「王子……待って。私たち、婚約の話は――」
「黙れ!」
王子が冷たく言い放つ。
「君のような地味で影の薄い女より、
リリアーナこそが私にふさわしい!」
ざわっ。
会場の空気が凍る。
だが、リリアーナはあくまで微笑んでいた。
唇に指を添え、囁くように言う。
「王子、もう少しお上品に」
「お、おう……そうだな」
彼女の一言で、王子がすぐさま態度を改める。
まるで主従が逆転しているかのようだった。
そしてリリアーナは、ゆっくりと婚約者令嬢に視線を向けた。
「貴女には、きっと貴女の道があるわ。
……でもそれは、王子の隣ではないの」
微笑みながらも、明確に突き放す。
この日の断罪劇は、
内容うんぬんよりも、リリアーナのドレスの話題でもちきりとなり、
翌日の新聞の見出しにはこう記された。
>【春を先取り!王子の新恋人リリアーナ嬢
"皇族級ドレス"で断罪会を席巻!】
新聞に載った自分の記事を切り取って
ノートに貼ったリリアーナ。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m