【カルテ1-①】新田まゆ(17) 足の骨折
夏真っ只中の8月上旬。体育館では朝から女子バスケ部の練習が行われていた。
「ナイスシュート!まゆ、すごいじゃん!大学もバスケで推薦もらえるんでしょ!」
見事シュートを決めたまゆの元に、親友のまどかが駆け寄る。
「来月の県大会での成績を見て決めるって先生が言ってたから、もっと練習頑張らないと」
そう笑顔を見せ、まゆはコートに走っていく。
まゆは小学3年生からバスケを始め、中学に上がる頃には周囲から一目置かれる存在となり、何度か地元ニュースで取り上げられた程だ。
高校2年生となった彼女にも大学進学が近づいており、勉強と部活で忙しい毎日を送っていた。
(最近少し寝不足かな?部活が終わるのは7時。それから帰って勉強して....今日も寝られるのは12時過ぎだろうな。)
少しずつ集中力が切れていく彼女にパスが回る。
「まゆ!シュートだ!いけぇ!」顧問が叫ぶ。
ハッと気づきボールを投げようとジャンプした瞬間、まゆの視界は180度回転し体は地面へと倒れこんだ。
「まゆ!ねぇまゆ、大丈夫?」
まどかや仲間がまゆに駆け寄る。
「うん大丈夫だよ....少し転んだだけ.....」
周囲に心配をかけまいと慌てて立ち上がろうとしたその時・・
「痛い!足が!足が痛いの!」
立ち上がろうと足に力を入れるものの、激痛が走る。
「すぐ保健室に連れて行く。誰か担架を持ってくるんだ。まゆ、足を動かすな。」
「担架?私の足そんなに酷いの?でも県大会までには治るよね?」
担架で運ばれコートを離れる彼女を、まどかは心配そうに見守っていた。
<保健室にて>
「まゆさん、どうしたの?」
養護教諭がまゆの元に駆け寄る。
まゆは保健室があまり好きではない。白いベッドが並び、アルコール臭が充満する空間をまゆはどうしても慣れる事ができないのだ。
その為、小さな怪我や体調不良の時も保健室に行くという事はあまりしなかった。
担架から椅子に移されたまゆに養護教諭は言った。
「まゆさん、少し足を触らせてね」
次の瞬間、まゆの足に稲妻のような鋭い痛みが走る。
「ぎゃあー!やめてよ!痛い痛い痛い。手を離してください!」
痛みに涙を流す彼女に、養護教諭は最悪の宣告をする。
「まゆさん、あのね...あなたの足、たぶん折れてるわ。骨折していると思う。」
養護教諭の放った「骨折」という単語が何度も頭の中を駆け巡る。
(骨折?来月の県大会はどうなるの?チームに迷惑をかける事になるし.....推薦だって....)
「とりあえず病院に行きましょうか。」
養護教諭に抱えられ、彼女は保健室を後にした。