可愛い女神の育て方(の始めのほう)
神様設定はふんわりです。
不妊を想像させる場面があります。お気を付けください。
生まれたばかりの我が子を微笑みながら見つめる。
早く大きくおなりと頬を撫でるとくすぐったいのか口元が緩んだ。
「まぁ、お腹がすいてらっしゃるのかもしれませんね」
傍仕えの者が嬉しそうに話しかける
「ええ、そうね。何度経験してもこの行為は神聖に感じるわ」
母乳を与えながら力強く求める我が子を再び見つめる。
ええ、ええ、と頷きながら傍仕えが相づちを打った。
「おや?我らの愛い子はお食事中かな?」
その声の主に部屋の中にいたものは一斉に跪いた。
手を上げて立つようにそして仕事を続けるように伝える。
「リゴリ、私にも赤子の顔をみせておくれ」
食事を終えた赤子の背中をトントンと叩きゲップを出した後そっと差し出した。
「ご覧ください、とてもかわいらしい女の子ですよ」
「ああ、そうだね。エレニと名づけよう」
その言葉を聞いた者たちが
『新しい女神の誕生をお祝い申し上げます』と頭を下げて再び跪いた。
「エレニ、貴方は多くの人々を幸せにするのよ」
エレニの母リゴリは頭をそっと撫でると願いを込めるように囁いた。
※※※
「エレニ様!危険ですので木から降りてください!」
乳母と侍女らしき女性が何人かが木の下で慌てながら女の子をなだめていた。
「いやよ!今日こそは皆がどのように生活しているのかこの目でちゃんと見るのよ!」
エレニは少しだけ、女神としての自我が芽生えたのか、それを言い訳にして木に登ってみたかったのか、とりあえず高いところが大好きな少女に育った。
「ああ、またリゴリ様にお説教されますよ」
乳母が心配のしすぎで涙目になっていた。
「大丈夫よ。母様は今日お祈りの日だから教会に下りるって昨日行ってたもの。あ〜早く私も教会に行ってみたいな。みんなどのような生活を営んでいるのかな?」
「エレニ様!ご不在なのはリゴリ様だけですよ!主神様はご滞在中なのですよ」
年が近い侍女がエレニに重大な情報を伝えた。
「えっ父様はいらっしゃるの?大変早く木を降りないと」
「木を降りないと?」
「父様に怒られちゃう」
「よく分かっているね。エレニ」
エレニは侍女たちの返事が無いなと思いながら下を向くと自分以外全員跪いていた。
あちゃ〜やってしまった。おまけに父様よりも高い場所にいる。
エレニは慌てて木から降りようとした時
「うわっ」
見事に足を滑らせてしまった。
「エレニ様!」
乳母や侍女達が慌てて駆け寄ろうとしたが
「良い、そのままで」と主神はエレニを助けることを許さなかった。
「キャー」
エレニはそのまま天界から人々が住んでいる人界に落ちてしまった。
周囲がパニックになっていると主神が再び手を上げ落ち着くように促す。
「あの子がそこまで興味があるという人々の営みを実際に体験するのも良いだろう。ちょうどあの子の近くに良い教会がある。いわゆる修行だね」
「主神様、まだエレニ様は女神教育を受けたばかりです。大丈夫なのでしょうか?」
いつもなら声を上げないエレニの侍女が心配そうに質問をする。
あまりの心配さに泣き出しそうになっているのでそれを見た主神が「うむ」と言った後
「君は、人界の事は知っているのかい?」と尋ねてきたので
「はい、エレニ様付きになる前に学びました」
「そうか…。じゃあ、一緒に行ってくれる?」
侍女は顔を上げながら
「はい、エレニ様のお傍へ!」
というと、侍女の姿から美しい天使の姿に戻った。
「ではっ!参ります」
そのまま天界から降りようとしたので
「ちょっと!待ちなさい!君、その姿で行くつもりなの?」
主神の言葉に侍女は「はい!」と元気よく返事をする。
主神はこめかみを押さえながら
「えっ、人界のお勉強したんだよね?その姿で降りたら駄目でしょ?人界が荒れちゃうよ?君の争奪戦になっちゃうよ?エレニの守護地域が大変になっちゃうからね!」
主神の言葉に、侍女はハッと息をのむ
「君のエレニに対する誠意はすごく伝わったから。エレニは初めからだけど君は人界でもエレニの傍仕えになれるように手配するから。いったん、先ほどの姿に戻ってくれる?」
「はい、かしこまりました。」
侍女は天使から侍女の服装に戻す。主神のホッと安心した声が漏れた。
「ちょっと待ててね」
主神が目をつぶると何かを確認しているような仕草をする。
しばらくすると「うん。ちゃんと移動できたみたいだ」と呟いた後
目を開くと目の間の侍女に声をかける。
「え〜と君の名前は?」
「はい、ライラと申します」
ライラはスカートを持ちお辞儀をした。
「うん。じゃあ、ライラはエレニの人界の乳母の子どもになってもらうから、記憶はそのままだけど名前は乳母が付けた名前になるからね!そして、ライラという言葉がエレニの記憶を引き戻すトリガーになるから、気を付けてね」
「はい、主神様の御心のままに」
「うんうん、後どうしても魔法の属性に光が入っちゃうから使いすぎないでね。エレニのエリアのまとめ役はリゴリだからやりすぎると怒られるから…。」
その言葉にライラが震えた。
「主に私が…ね。」
主神は言葉の最後に自分を指で刺したので、少しだけじゃあいいかと思ってしまった。
「あっ後ね!」
主神が色々思いついたように説明をしていると後ろからゴゴゴゴと聞こえるようなオーラが発生した。
主神は少し震えながら振り返ると
「貴方様、先ほど乳母から話を聞きました。今から少しよろしいかしら?」
リゴリは微笑んでいたが、微笑んでいなかった。
これ、絶対ヤバイやつだ。
主神は平常心を保つように自分に言い聞かせる
(がんばれ!わたし!)
「ライラ、エレニをよろしくね。隣の領はあの子の何番目かの兄の地域だから本当に困ったらそこの教会へ行きなさい」
「はい、リゴリ様ありがとうございます」
「少し時間がかかるからそのままライラを人界に下ろすわね」
リゴリの前で跪いたライラのつむじに掌を翳すと、ライラは光となってその場から消えた。
リゴリは小さくフッと息を付くと
「じゃあ、貴方様こちらへいらしてください」
と夫妻の部屋へと連行され…連れていかれた。
※※※
二人の夫婦が教会から出てきた。
豪華な馬車が2人を待ち構えている。
しかし、夫婦の表情は冴えなかった。
「あなた、今月もお祈りをしましたわ」
妻はエスコートされ馬車に乗ると夫に向かって話しかける。
「ああ、そうだね。今日も素晴らしい集会だったね」
夫は優しく妻の肩を抱いた。
「もし、今回も駄目だったらあの事を考えてください」
妻はがんばって微笑みを作るが夫には上手く伝わっているだろうか不安になる。
夫は首を横に振りながら
「何度でも言うが、私はアマリア以外と子どもを作る気はないよ」
「でも、貴方はこの領の当主です。このままでは…。」
「だったら別の方法を考えればいいじゃないか?」
夫はそういうと力を込めて妻の肩を抱き寄せる。
「いつか、私達の願いを女神様が叶えてくださるさ」
涙ぐむ妻のつむじにそっとキスを落とすと
「ええ、そうね。女神・リゴリ様はきっと私達をご覧になっていらっしゃるわ」
2人を乗せた馬車はそのまま家路へと向かった。
教会でお祈りを終えた次の日アマリアは心地の良い天気だったので庭でお茶を楽しんでいた。庭にはアマリアの為に育てられていた木々や花が鮮やかに色づいている。
お茶を飲んだ後読書をしていると、ふと強い風が目の前を通り抜けた。
読んでいた本のページがパラパラと捲れたので少し驚いた。
そういえば、そろそろ日差しも強くなってきたので邸に戻ろうと侍女に伝えた。
侍女はアマリアに
「そろそろ見ごろのお花がございますのでご鑑賞の後、戻られますか?」
と提案されたのでそうすることにした。
綺麗な花々を楽しんだあと、邸に戻ろうとしたとき一本の木が風に靡いているのが目についた。思わずその大きな木を下から見上げてみると
(わぁ~~~)
小さな女の子がアマリアの上に落ちてきた様に見えた。
アマリアは驚き思わず
「キャッ」と言いながら尻もちをついた。
突然の事にアマリアの周囲にいた侍女や庭師が驚き駆け寄った。
「奥様いかがなされましたか?」
「お体は大丈夫ですか?」
ちょうど見回りをしていた騎士がアマリアの手をとる。
「ありがとう、少し日の光を浴びすぎたのかもしれないわ」
そういうとそのまま邸へ戻っていった。
尻もちを付いてしまったので体に異常がないか医者に見てもらったが大丈夫だと言われそのまま帰宅してもらった。
「少し疲れたから一人にしてもらえる?」
アマリアの声かけに侍女たちは部屋を後にした。
一人になったアマリアはソファーに座り肘置き場に体を預けると
「まさか、女の子が木から落ちてきたの。なんて人に言えないわよね」
アマリアは確かに目で見たのにその場にはいなかった。
とても不思議な現象なのか、子どもが欲しすぎて幻覚を見てしまったのか。
とにかく疲れているのには間違いないと思い、そのままソファーでウトウトした。
夕方、夫が帰宅するなりアマリアに朝起こった事を尋ねられた。
「何かに驚いて、倒れたと聞いたが体調は大丈夫かい?」
「はい、私ったら日差しを浴びすぎてしまったのかもしれません」
少し恥ずかしかったアマリアはハニカミながら話を続ける
「木を見上げていたら、上から女の子が落ちてくるのが見えたんです。でも実際には誰もいませんでした。さすがにその話を侍女や医者には話せなくて」
だから2人だけの秘密にしてくださいね。と伝えると、夫は抱きしめながら
「私の妻は年々可愛らしくなる祝福を女神様から頂いたのかもしれないね」
と言われた。
アマリアはこんな素敵な人と夫婦でいれることを女神に心の中で感謝した。
それから一カ月後、アマリアのお腹に新しい命が芽吹いている事を夫は知ることになる。
あっあれ?育ててない?
ってか生まれてすらない?
最後までお読みいただきありがとうございました。