幕間 ヒューとチュチュのTea Bleak ~昔語りを一匙~ ①
「食べないのかい?」
まろやかな優しい香りと湯気が立ち上る『音楽魔法具店』の応接スペースで、ヒューはチュチュの紅茶にティーポットを傾けた。
本日のティーメニューはマーマレードを添えたショートブレッドとヘーゼルナッツミルクティー。
ショートブレットはあっさりした甘味の棒状の焼き菓子で、チュチュの好みだと思ったのだが。
「うん。なんかさ。……たった今聞いた話が結構胃にもたれて」
マロン色の紅茶を注ぎながら、ヒューは苦笑した。
それはそうだろう。
元気溌剌、おてんばピカイチではあるが、この姉想いの妹にとっては。
「……危機一髪だったんだね。お姉ちゃんがいきなり犯人に向かっていくなんて。
それ聞いたとき寒気がしちゃった」
言葉通りぶるると身を震わせるチュチュに、ヒューはティーカップを勧める。
「――今回は、ほんもののミュージカリー・カップだったんだよね」
自身も向かいの席につき、ティーカップを持ち上げたヒューの手が止まった。
「でも、話聴いた感じだと、ファントムお兄さんは推理したうえで判断したみたい」
――この子は。
思わずそのままカップをソーサーに戻してしまう。
「ファントムお兄さんは、ほんとうに一度、ぜんぶのミュージカリー・カップを見てるの? それをつくらされたときに」
――根っから無邪気なようで、異様に賢いから困るな。
観念し、ゆっくりとヒューは首をふる。
「世に散らばってしまっているミュージカリー・カップを生み出したのはたしかに僕だ。だが、祭壇に現れた品物の確認が逐一許されたわけじゃない。多くの場合、その前に父が持ち去った」
ショートブレッドに塗りかけたマーマレードをスプーンごと放り出し、チュチュは詰め寄る。
「じゃぁやっぱり、ファントムお兄さんにも、ぱっと見ただけじゃほんものかどうかわからないんだね。つまり――楽な商売だからやってるってわけじゃないんだ」
「……」