㉑
だがここでも、ヒューは指を振った。
「二番目の音に注目しよう」
そして今度はジャスパーに話を向ける。
「ペット奏者であるきみにこの音がなんの音か訊いたとき、ソのシャープと答えたね」
「ああ」
「だがこれは正確には、ソのシャープからはほんの少し低い音なんだ」
周囲の視線を受けて、ヒューは穏やかに言う。
セレナーデでも奏でるように。
「フルートやトランペットなどの、ピストンを押して音を出す管楽器では、ソのシャープとラのフラットは同一音だ。ピアノの鍵盤でもぴったり同じ位置。ソとラの間の黒鍵だね」
「だが、ヴァイオリンなどの弦楽器は、弾く弦の位置をずらしながら弾くために、二音の微妙な差が表現できる」
ティナがまたたきする。一度、二度。
目と閉じ開くたび視界に、真理の光の粒が集ってくるような感覚に陥る。
「ヴァイオリン奏者であるクラレンスにとってこの音は、ラのフラットだった。ラのフラットをドイツ音名にして、もう一度音の名を並べて見てくれ」
震える声で、ティナが呟く。
「ラのフラットはドイツ音名でAs。それを二番目に当てはめると……」
浮き上がった文字に、全員が息を呑んだ。
Cas Daae