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 一同に絶句した空気が流れる。




「おそらく高額で売り主からクラレンスが買い取り、ダーエ嬢の元に送っていた」


「わたしの才能を失くすために……?」




 力なく問うキャスに、ヒューは首肯する。


「残念ながらそうだろうね。彼はきみと結婚することで巷の話題を呼び、ヴァイオリン奏者として海外デビューを果たしさらに飛躍しようとした」


 菫色の瞳に、労わるような影が帯びる。


「携帯していた眠り薬が危ないと踏んではいたんだが。まさかリスクを冒してまで、こんな大舞台を選ぼうとは予測できなかった。すまない」


 一息吐き、その後、乾いた笑いが病室に響く。





 手に顔を埋め、キャスは笑っていた。





「完璧に利用されたってことなのね……」


「だが解せんな」


 口を開いたのは、それまでむっつりと黙っていたジャスパーだった。


「今日の件でクラレンスがとんでもない人でなし野郎だってことはわかった。だが、ブローチを送りつけたのがあいつだとする証拠は?」


 ヒューはゆっくりと、視線を再びキャスへと転じる。


「ダーエ嬢。彼は、名前入りのブレスレットやネックレスを記念に必ず送ってくるといっていたね」


 ベッドのとなりのテーブルに置かれた六つのブローチをヒューはそっと手にとる。


「ブローチの音を、もう一度響かせてみよう」




 ド ソ♯ レ ラ ラ ミ




 印象は、最初に耳にしたときと同じだ。


 なんの規則性も、まして芸術性などない、ただの音の羅列。




「これがなんの証拠だってんだ」


「ジャスパー。この音を違う言語で並べてみたらどうかな」


 


 ヒューはやんわりと返答する。





「我々音楽家のあいだでは、一般的なドレミといったイタリア音名より、ドイツ音名で音を読むことが多い。この音をドイツ音名で読むと、どうなるだろう」




 代表するように、ティナがドイツ音名で音を読み上げていく。




「C・ Gis ・D・ A・ A・E――意味をなさないわ」

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