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 先月の頭。パーヴェル音楽学校の昼休み。

 中庭の隅にある、休憩スペース。裾の長い貴婦人がタフィーピンクのスカートと扇を広げたたずむす姿のように咲き誇るツツジが香る蔦のアーチの下で、チュチュは悩んでいた。


 一カ月後に迫った最愛の姉の誕生日。

 少し前ポート・ペロー通りでたまたま見つけたぴったりのオルゴール兼バロタン・ボックス。


 だが。


「よ、ちびねずみ」


 気楽な調子で声をかけてきたのはレイン・シングだ。

 パーヴェル音楽学校の同じミュージカル科の同級生であり、学科の中ではトップの成績を誇る。

 ダークブラウンのストレートな髪も瞳もすてき、強引そうなところもいい、という女子もいるが、そのへんはチュチュにはよくわからない。

 たしかに大人顔負けの気迫で舞台に臨む姿はすばらしいと思う。

 が、習性にやや難ありだ。

 チュチュが日々のレッスンでへまをしたり、体調管理がなっていないと容赦なく毒舌をかますし遠慮もない。

 まぁそこがこちらもなにかとものを言いやすい所以でもあるのだが。

 ついでに言うと、チュチュという名前がねずみの鳴き声みたいでかわいい、と秋の入学式で女子たちが言ってくれたのだが、それをこいつがちびねずみという屈辱的なあだ名に転用するようになってしまった。



「どした? 元気ねーじゃん。ダンス、ちんちくりんのわりにちょっとは上達してたのにさ」

「どうも。どうせ優等生のレインからしたらちんちくりんですよ。次の学内公演で主演を射止めたくらいですしねー」

 柄にもなくひがみっぽいセリフが口をついて出て、なんだかもやもやした気分になるが、

「まぁな! オレの実力はいつだってお墨付きだ!」

 レインにかかれば激励の言葉でしかないらしい。

「ちんちくりんのためにも少しは役立てないとな」

 とかなんとか言ってのけると、視線を青空に、蔦の中にとさまよわせ、ちょっと恥ずかしそうに、ぼそりと、レインは繰り返した。


「で。……なにがあったんだよ?」

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