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「それがミュージカリー・カップかどうか興味は?」


 継ぐヒューの問いにも、ジャスパーは首をふるだけだ。


「別に。ほんとうだとしたって、どうってことないだろ。宝石かなんかもらって、あいつも半分浮かれてるから、足元すくわれるんだよ」


 むっとして、ティナは思わず一歩進み出る。


 大人しく控えているようにとの指示も、頭から吹っ飛んだ。


「キャスは本気で悩んでるわ。ミュージカリー・カップのせいにする気はない。けど、今までにないスランプで、どうしていいかわからなくなってるのよ」





 ふいに、トランペットを磨くジャスパーの手が止まった。





「……そうだな。悪かった。多少、個人的な情が入った発言だったかもしれねー」




 思いのほかあっさり謝られて、ティナはかえってたじろいでしまう。


「え、えぇ。……わかってくれれば、いいんだけれど」


 ヒューの口元が、かすかに綻ぶ。


 トランペットを脇に置くと、ジャスパーは両手を組み前方に身を傾けた。




「ただもし、あいつのフルートの才能を奪おうとしてるやつがいるなら――見つけ次第ただじゃおかねえ」




 鷲のようなすごみをきかせた瞳に、ティナは呆れ恐れ入る。


 ――まぁ。演技だとしても見事だわ。




 ヒューを見ると、相変わらず微笑んでいる。


 まったく、なにを考えているのかティナにはさっぱりだ。




「きみの気持ちはよくわかった。今後彼女のために力を借りるかもしれない。連絡先を聞いても?」




「別に、かまわねーけど」




 メッセージアプリのアカウントをメモし、ぶっきらぼうに突き出す彼に丁寧に礼を言うと、


「最後にジャスパー」


 ふいにヒューは言った。




 菫色の瞳は楽しげな潤いをたたえている。




 スーツの胸元から取り出したのは電子チューナー。




 小さな箱型のガジェットだ。指定した音が出るようになっている。 


 音楽家が楽器の調律や音合わせで使うものである。




 ヒューがボタンを押せば、四角いポケットサイズのそれは電子音を発しだす。




「これはなんの音かわかるかな?」


「あ?」




 眉根を寄せたあと、ジャスパーはふっと苦笑した。





「あんた馬鹿にしてんのか? 一応プロなんだぜ」





 そして難なく答えを口にする。




「ソのシャープだろ」




 ヒューは音を止めた。




 にっこり笑いかける。




「正解だ。ありがとう」




 そう言うと一礼し、踵を返す。


 いったい何の儀式かと首を傾げたくなるのをこらえて、ティナも頭を下げ、ヒューの後を追った。

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