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「クラレンス・ケアードさん。ちょっといいかな」


 昼の休憩時、ベンチが点在するシティーホールの中庭で、ヒューは標的に近づいた。


 後ろでの洞察を指示されたティナは調査用の帽子をかぶり、じっと身構える。


「取材の類?」


 声をかけられたクラレンスは、すまなそうに片手を上げた。


「悪いけど、このあと演奏旅行の件でいろいろと打ち合わせが――」


 ヒューが音もなくつきつけた小さな袋を見て、クラレンスの言葉が止まる。


「これをお返しするよ。さきほどあなたが落とした」


 クラレンスだけではない、後ろで控えていたティナも目を瞠る。


 ――ヒューってばまたかすめとったのかしら。





「飲料に溶かす睡眠薬。――相当、張り詰めているようだね」





 地から響くような低い声で囁くヒューの菫色の瞳は、怜悧な光を宿している。


「恥ずかしいな。見られてしまったか」


 はにかみつつ、クラレンスは薬を受け取る。


「本番前なんかにはプレッシャーに耐え兼ねるときがあるからね。少々持ち歩いているんだ」


 険しい顔に似合わない穏やかな声で、ヒューは続ける。





「ストレスの原因はほかにも? たとえば、恋人とか」





 ヒューがかまをかけると、クラレンスは合点がいったようにあぁ、と頷く。


「キャスの依頼を受けて動いているのってきみたちか」


 そう確認するように言ったあとで、素直に肯定する。


「まぁ、そんなところかな。彼女、なかなか結婚にふんぎりがつかないようで」


「……いささか焦っているのかな。薬が必要なほど」


 ヒューのそれは気遣いの言葉だが、いつものあたたかみがかけらもない。


 菫の瞳は相変わらず冷たく、揺らがずに凍りついている。


 気に障ったのか少しだけむっとした顔をして、クラレンスの語調が心なしか強くなる。

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