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「あら。もうすぐ一年になるっていう、同じ楽団でヴァイオリンをしている彼? クラレンスって言ったかしら」


「……そう」


 肘で友をつつきながら、ティナはからかうような声を出した。


「優しくて紳士的だってのろけてたわよね。それだって、彼からの贈り物でしょ?」


 腕にきらめくブレスレットを示されたキャスが、うっと言葉に詰まる。


「ま、まぁね」


「ティファニーのブレスレットじゃない! すてき」


「ラブラブだ……」





 遠い世界のことのようなチュチュの呟きにさらに頬を赤くして、キャスは続ける。


「記念日には、必ず名前入りの品を贈ってくれるの。こんな高価なもの、もったいないって遠慮するんだけど聞いてくれなくて」


「そんなにいい感じなのに、なにがあったの?」


 膝に拳を乗せ、天井を仰ぐと、キャスは息を吐き出す。





「……さいきんすれ違いが多くて」


 ティナが前のめりになり、チュチュが耳をぴくりとさせ、ヒューがじっと、耳を傾ける。





「決定的だったのは、彼の演奏旅行に付き添うために、ロンドンでのソロ演奏会の依頼を断ったことね」





「えっ」


「ええっ」


 同時に声を発したのは、ティナとチュチュ姉妹だ。


「ソロ演奏会なんて、そうそうできるものじゃないじゃない」


「だよね。音楽家としたら、めっちゃチャンス。キャスさん、それを断っちゃったの?」


 まぁ……とキャスは苦々しげに頷く。


「彼が、強く希望したから。きみの助けが必要だって」


 キャスはどこか虚ろな目で窓の外、晴れ上がったロンドンの空を仰いだ。




「笑ってよ、ティナ。フルート一つで生きていく。学生時代は男になんかふりまわされないって二人で大口たたいてたけど、しょせんこんなものよね」


 そう言ったきり沈黙してしまう友の肩を、ティナはそっと包み込んだ。


「肩を落とさないで。学生時代フルート一筋だったあなたのことだから、ちょっと意外だっただけ」


 そしてかすかに笑って、こんなふうにつけ足した。


「結局男にふりまわされたという意味じゃ、笑えないわよ。わたしだって」


「ん?」


 目を逸らし、口笛を吹き出すヒュー。


 どこかコミカルとなった空気に噴出したキャスは、先を続けた。





「結婚したら、フルートを辞めてほしいって言われていて。それはさすがに無理だって言ったんだけど」


「まぁ、キャス。フルートを辞めたり、しないわよね?」

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