④
キャスが赤いブローチを手にとった瞬間――ヒューは目を見開いた。
それはまっぷたつに割れたのだ。
ブローチはぱかりと二つに開くようになっている造りのようだ。
そこから、小さな音がする。
曲のメロディーではない。鉄琴のような愛らしい音でただ、一音だけ。
橙、黄と続けてキャスがブローチを開けていくと、どれも一音だけの音を奏でるのだった。
音の階名を送られてきた順に並べると、
ド ソ♯ レ ラ ラ ミ
「並べても有名な曲のメロディーになるわけじゃない」
「うん。ただの音の羅列みたいだよね」
分析するティナとチュチュに、キャスは頷く。
「えぇ。とくに意味はない、お飾りのようなものだと思うのだけど。楽譜上の音を成しているってことから、気になって」
「なるほど」
白い手袋に包まれた手を顎に当て、しばらくじっと考えこむと、ヒューは口を開いた。
「ダーエ嬢。このところなにか音楽以外で、困っていることはないかな」
「えっ?」
一瞬驚きに目を瞠ったあと、キャスはうつむきもごもごと口にする。
「それは……。まぁ、ないこともないけど。この一件とは関係のないことだし……」
込み入った話を切り出すのを躊躇する彼女のティーカップにミルクを注ぎながら、ティナがゆったりと囁く。
「ミュージカリー・カップにまつわる謎は、その人の抱えている問題と関わっていることが多いの。安心して話して。ここで聴いたことは、他言しないと誓えるから」
ティナの視線を受けとめ、一つ、頷くと、キャスは語り出した。
「……同じ楽団で、つきあっている人がいるんだけど」
とたんに、チュチュの丸い頬がぱっと赤くなり、ティナの瞳のライムグリーンがきらめいた。