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右へ左へキースが繰り出すナイフをよけていくが追い詰められる。
半面の瞳は無表情。
虚ろな目でヒューは松明を放った。
演舞のように舞った松明は標的を大きく逸れて、奥のマントルピースが燃え上がる。
「ばかめ、大幅に外しやがって」
湖上に浮かぶホテルの別館。
外には大量の水。
キースは窓からたくわえた水であっという間に燃え盛る炎を消火してしまう。
ティナはなんだか泣きそうな心地になる。
――もう、なにやってるのよ。
できることなら心の中で恨みつらみを並べ立てたかったが、残念ながらそれは許されなかった。
マントルピースの戸棚から錠を取り出したキースが、ティナの閉じ込められている小部屋とのつなぎ目に向かってきたのだ。
「さあ、これでわかったか。オレに歯向かうことが間違いだったんだよ。大人しくしろ」
ちらとティナに目をやり、笑う。
「悪いな、オレ以外の才能はできるだけ消えてもらう方針なんだ」
キースは部屋と部屋とつなぐ足元に錠を射し込み、切断する――。
ティナは視線を床に落とした。
もう終わりだ。
この身は単身、湖に投げ出され、滝つぼに落ち、砕け散る――。
「――ん」
ティナはそっと目を開く。