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「誰だっ」




 男が振り返ったさき――部屋の入り口に立っていたのは、左の半面に仮面をつけた、スーツ姿の風変わりな男。




「正義のヒーローと言いたいところだがね。きみには呪われた怪人がお似合いだ」




「ヒュー……!」




 その手には松明が赤々と燃え盛っている。


 キースは目にも止まらぬ速さで胸元からナイフを取り出すと、ヒューにとびかかる。




 ヒューはさっと飛びすさって空中で一回転する――炎が赤い輪を描いた。




 その後も男の攻撃をかわしながら、松明を持ち替え、時には放って受け止めながらひょうひょうと、ヒューは切り出した。




「確認していいかな?」


「時間稼ぎのつもりか」




 憎々し気な男の口調も気にした風もなく、彼は推理披露をはじめた――。




「きみは僕の父――ノア・イシャーウッドの命令でミュージカリー・カップをこの場所で人々に売りつけていた。グラスミア湖に見える火の玉の正体は湖を渡って本館から定期的にやってきていたジャクリーンだ。これでボートの知識があったのもうなずける。ミュージカリー・カップを得る交渉に通い詰めていたんだ」




 その場にうずくまっていたジャクリーンが、うな垂れることで肯定の意を示した。




 傍らの炎と対照的な冴え冴えとした視線を、ヒューはキースに向ける。




「女性を脅し働かせ、人々にミュージカリー・カップを売りつける代償に、父からなにを受け取っている」




 問いを向けられ、キースが初めて、笑みを見せた。




「ふん。――世界の頂点さ」




 そうか、遅い反抗期がきているとかいうイシャーウッドの息子かと、嘲るように笑い、続ける。




「悪く思うな。実の親からすら呪いの道具として利用されてきたお前にはわからんだろうがな」




「キース・ヒューストン」




 読み物でも読み上げるかのようにすらすらと、ヒューは諳んじる。




「きみはかつて、売れたミュージカル俳優だった。今は見る影もないが、容姿、実力ともに恵まれていた。歌手として峠を過ぎ、落ち目だと言われ始めた頃、父と出会った」




「あぁ」




 憎悪と嫉妬に、キースの口元が歪む。




「成功していたときはちやほやしていたくせに、ほかのやつに人気が移った途端手のひら返しやがって。どいつもこいつも。なんにも知らないくせに。トップに立つためにオレが払ってきた代償のことなんぞ」




 繰り出される拳が、いっそう荒々しさを帯びる。




「金はぜんぶあんたの親父にくれてやる。報酬としてオレが望むのは、自分以外の才能を葬ることだ。トップに立つためにな」




 ヒューの瞳が、すがめられる。




「その報酬が、あの高性能のミュージカリー・カップか」




 その視線の先にあるのは、部屋の最奥――マントルピースの上に白銀に輝くティーアーンだった。




 沈黙と笑みで応えたキースを見つめ、ヒューが目を閉じる。




「よく、わかった」

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