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 数分ボートを漕いでたどり着いたのは、森林に覆われるようにして鎮座するホテル『アストレイア』の別館だった。


 中心にモスクのような丸屋根。それを支える小ぶりの棟や壁はレモンイエロー。


 本館と異なり、近代的な外観だ。




 入り口から続く回廊を進み、つきあたりの扉をジャクリーンは押す。




「――これは」




 六角形の大部屋は、六面すべてが棚となっていた。


 暗がりでも主張の強い無数の色の光。


 異国風の陶器品、古風な趣のある工芸品、細やかな造りの装飾品。


 部屋に広がるこの品々は――おそらくミュージカリー・カップだろうと、ティナは誰何する。


 奥に備え付けられたマントルピースの上にそびえる銀のティーアーンが鈍い明かりを放つ。


 品々の放つ美しさと魔力的な魅力に眩暈がしそうになり、額を抑える――。





 ふと、とりつけられたような奥の小部屋が気になり、扉を開け足を踏み入れる。


 大部屋とは対照的に、そこには何一つ見当たらない。


 空き部屋のようだ。


 だが、重要なミュージカリー・カップが隠されていないとも限らない。


 暗闇にティナが目を凝らしたとき。





 鋭い金属音を立てて、扉が閉まる。


 鉄柵の奥にはジャクリーンと、ぎらついた目をした金髪の初老の男。


 ティナは短く息を呑んだ。


 小部屋に、自分一人が閉じ込められた形となる。





「よくぞのこのこやってきてくれたものだ。わたしのことを嗅ぎまわる、探偵もどきが」


 隣でジャクリーンはなにかを悼むように瞳を伏せている。




「ごめんなさい。あなたを連れてくれば、ミュージカリー・カップを売ってもらえると」




 じわじわと見えない闇が視界を侵食していくような錯覚がティナを襲う。



「そんな。……じゃぁ、さいしょから?」




 小刻みに震える唇を、ジャクリーンは噛んだ。




「……えぇ。チュチュさんが、カウンターに落とし物を届けているのを見て。食事の席でエイプリルの髪を直すふりをして、髪飾りをわざと置き忘れたの」




「残念だったな」




 男はかがみ込み、強調するようにティナと自らのあいだの足元を蹴り上げる。




 視線を落としたティナは凍りついた。




 そこは取り外し可能な掛け金になっている。

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