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 愉快な笑い声は、湖畔の木の下、涼んでいる姉たちにも届く。




「……あんなふうな声を聴くと、なんでも許してしまいたくなるから不思議」




 昨日こっぴどく叱られたことなどなかったかのようにはしゃぐ妹たちに、そしてどこか自分自身にも苦笑しながら、ティナが呟く。




「半ば母親代わりのようなところがあるのでしょう。わたしたちのように年齢が離れていると」




 まっすぐに伸びる橋のように妹たちの乗ったボートに注がれていたジャクリーンの視線が、ティナに移った。





「ティナさんたちは、なぜロンドンから湖水地方に?」





 ティナはあいまいに肩を竦める。


 やはり、ある程度親しく話せばこの話題は出るだろう。




「ちょっと気分転換に」




 表情を変えずに、ジャクリーンはかすかに顎を引く。




「わたしたちのような療養目的でもなければ、あの年ごろの子たちといっしょの旅先に選ぶには、こののどかすぎる田舎町は物足りないのではないかしら」




「……」




 なんと答えてよいかわからず、ティナは黙ってしまう。


 やはり、聡明な人だ。




「出すぎたことだとしたら謝ります。……でも」




 再び上げたその視線の先には、ボートから水をすくっては宙にまき散らすエイプリルの姿がある。




「あなたの妹さんと出会ったことで、あの子はあんなにも活き活きしている」




 ティナの口からも思わず肯定の声が出そうになる。


 そう。


 チュチュには生まれつき、一緒にいる人の心を照らし出してしまうところがある。




「もし、わけあり姉妹同士ということであれば、尽力したいと思うの。わたしは、あなたたちに借りがあります」


「……そんな、借りだなんて」




 それどころか、あの純粋さゆえに、エイプリルも危険にさらしてしまった事実もある。


 だが、そのへんの詰めの甘さ、計算のいたらなさもまた、チュチュが誰かを照らす所以なのだということも、ティナは心得ている。




 その魅力のおかげで、力になりたいと、そう、ジャクリーンが思ってくれているのだとしたら。

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