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ティナの脳裏に、昨日ガーデンでチュチュと交わした会話がこだまする。
魔法の国の権力者に立ち向かうために。
動物の言葉を取り戻すために、悪い魔女になることをいとわなかった、エルファバ。
『ウィキッド』第一幕終盤で、力強く歌い上げる彼女に自分は強く賛同し、魅かれたのではなかったか。
「妹さんに杖を向けたわたしに、あなたが木片で応戦してきたように」
ティナの脳裏に、共鳴するようになにかがかき鳴らされ、呼応する。
神のとりこぼしたものを救うためならば。
秩序を形作る策を捻じ曲げよう。
そして、その罪も引き受けよう――。
「……わかったわ。もう怒らない。けど」
ティナは、再度妹を抱きしめる。
「もう二度と危ないことをしてはだめよ」
「はい……っ」
数秒間そうしていて、
「あ」
腕の中でかすかに妹が身じろぎする気配を感じて、ティナはようやくその腕を緩める。
「お姉ちゃん、見て」
まぁ、とかすかなジャクリーンの感嘆が聴こえる。
部屋の大窓から差し込む、柔らかなオレンジ色の光。
グラスミア湖の上空。ピンクと紫に染まる朝焼けが見えた。