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「!」
突如告げられたあまりに残酷な事実に、開きかけたティナの唇が凍りつく。
「あの子は――脳腫瘍という病に侵されています」
差し向けられたチュチュはうな垂れたまま、ゆっくりと頷いた。
「……コッツウォルズにパパとママといて、お姉ちゃんがロンドンに行っちゃったばかりで寂しかったとき、仲良くなった子がいたの。その子も、お出かけを控えたり、たまに手や足が震えだしたりして。……たぶん、同じ病気だった」
ティナの瞳が見開かれ、碧が大幅に薄まる。
チュチュが言っているのは、ティナがミュージカル女優を目指して音楽大学に入学をした頃のことだろう。
もう六年ほど前のことだ。
同時に当時メールのやりとりもしていたが、そんなこと妹は一言も書いてこなかった。
姉の瞠目の真意を察したのか、チュチュはぽつりと付け足す。
「……悲しいこと書いたら、お姉ちゃんロンドンで悲しむもん」
カレンダーのページを繰ると、様々な季節の絵画が一瞬で目の前をはためき、過ぎていくように。
幾重もの心情が、ティナを襲う。
いつも単刀直入で、単純で、無邪気で。
そういう妹が愛しかった。
だがその彼女も日々色々なことを考えて学んでいる。
こんなふうに大人顔負けの気遣いをいつの間にかするようになっているのだ。
圧倒的な寂寥感はしかし、古代遺跡を訪れたときのような神聖な想いも含んでいる。
広大な砂漠にただ一つそびえる遺跡の隙間から覗くのは小さな隙間風と、灼熱の光。
ティナは悟った。寂しさでありながら、それは感銘でもあるのだと。
「ティナさん」
複雑な感情ごとティナに寄り添う声は、ジャクリーンのもの。
「妹たちが隠れて危険を冒したのは咎められるべきことです。ですがわたしは」
泉のような理性の中心に、堅牢な砦のような情熱をそびえさせた、彼女の声。
「許されるべき悪もあると思っています」