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⑮
萌黄色に黒の蔦の壁模様。
中心に楕円形の鏡。
奥に大ぶりの窓。
ゆったりとした二つ続きの部屋。
ホテル『アストレイア』三階のジャクリーンたちの一室は、チュチュたちのそれよりも一段グレードが上の部屋のようだ。
入ってすぐの空間に、ティナとチュチュ。
隣の部屋のベッドにエイプリルを横たえたジャクリーンはじっと様子を見守っている。
感情を抑えた瞳にはわずかに、自責の念が窺がえた。
「なに考えてるの、チュチュちゃん」
仁王立ちになり、危険なことをしでかした妹を、ティナはぴしゃりと叱りつける。
「エイプリルちゃんは身体が弱いって知っていたのに、夜の湖をボートで連れ出すなんて」
「……ごめんなさい。どうしても、エイプリルに星空の湖を見せてあげたくて」
心配と恐怖で未だ震えが収まらない唇で、なおも言い募ろうとするティナを制す手があった。
紺の地味な袖で覆われた腕。
「いいのよ」
無表情だったジャクリーンは、かすかに笑んだ。
「おそらくチュチュさん。あなたはわかっていらしたのね。――あの子が余命いくばくもないと」