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 森林の中浮かぶグラスミア湖。


 そこに立った今、小さなボートが漕ぎ出された。


 二人の少女の手によって。





「エイプリルのお姉さんに見つかったら酷いんじゃない?」


 慣れない手つきでオールを漕ぎながらチュチュが言う。


「そうね。怒るとものすごく怖いわ」


 そう返すエイプリルは言葉のわりに楽しげだ。


「座らされて、静かに延々とお説教されるの。夜読む聖書を二十ページ追加されて、反省と祈りのオンパレード」


「うわぁ」


 聖書を二十ページ以上。


 読書の苦手なチュチュには聞いているだけで目が回る話だ。


「そのへんはうちもいっしょかな。お姉ちゃん、ちょっと音楽学校の練習で遅くなったりして、連絡するの忘れるとめっちゃ怒るの」


 オール係をエイプリルにかわってもらうと、腰に両手をあてて、チュチュは声音を変える。


「『チュチュちゃん、こんな遅くまでどこにいたの? 次やったら家に入れません』って」


 我ながら怒っているときの姉のモノマネはうまいほうだと思う。


 実際次があっても、怒った顔で必ずドアを開けてくれるのではあるが。





 目を閉じ水面に揺られていると、目に浮かんでくるのは、なぜかティナの穏やかな笑顔だった。


 チュチュはうっすらと目を開け、息を呑む。




「見て! エイプリル」




 頭上には一面の星空が広がっていた。


 まるで神が祝福の粉をちりばめたような光景にしばし、言葉を忘れる。




「すてき……。チュチュちゃん、こっちもよ!」




 エイプリルが指し示すのは、天空の星々を写し取った水面。


 神の創造物、という言葉がチュチュの頭に浮かぶ。

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