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「もう。遊びじゃないのよ」




 両手を腰に当てるティナに、ちっちっちと指をふり、チュチュが取り出したるメモ用紙には、こう書かれていた。






 ティナへ 出張旅行上の留意点




・ホテル側には調査を悟られず、あくまで一般の観光客を装うこと。


・リゾート地とはいえ仕事であるから、不埒な輩に声をかけられても断じてデートなどしないように。


・僕がお供を頼んだので、チュチュくんを叱らないように。






 げんなりと、ティナはメモ用紙を受け取った手を勢いよく下ろす。


 最後の一行は大方チュチュが書かせたのだろう。


 ちゃっかりしている。




「父さんと母さんがいるコッツウォルズも田舎町だったけど、こんなにおっきな湖なんてなかったよね!」


 ステップを踏むごとくタッカと片足を鳴らして、チュチュがダダ上がり中のテンションを惜しみなく披露する。


「それだけじゃない。ホテルには豪華なご飯や湖に面したお風呂もあるって! お姉ちゃんと旅行なんてすっごい久しぶりだもん! 嬉しいなぁ」


「――」


 無邪気にころころと微笑んでぴたりと身を寄せてくる妹を見ると、だから遊びじゃない、という台詞も喉の奥へと通り過ぎてしまう。


「やれやれ、ね。――いい子にしてるのよ」


 こういうとき妹は得だと思う。


 姉の彼女は結局了承し、小言を飲み下してしまう。


 ティナはチュチュの背を押し、エレベーターへと向かった。


 ――だが、新鮮な空気の固まりが通っていったその喉越しは、決して悪くはない。




 不本意ながら微笑むティナと、ぴょこぴょこと跳ねて喜びを表現するチュチュ。


 そのほんの数メートルさきの、柱の前で。


 路考茶色の髪をまとめた女性が眼鏡越しにじっと見つめていた。

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