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④
赤茶色の水面に映る元来は菫の目は、底知れぬ黒と見える。
「この命に代えても」
チュチュはしばし、言葉を忘れた。
「そう、なんだ……」
こんな底のなさそうなへらへらした兄さんも、色々抱えているのかもしれない、と思う。
あんなに歌を愛していたお姉ちゃんが、ぱったりと舞台を、いや歌うことすらやめてしまったり。
大人って、わからない。
ほら。
湯気越しに見えるのはもう食えない笑顔だ。
「ここからさきは、ひみつ、かな?」
ティーカップを傾けるヒューにならってチュチュも、ティーセット下段のフロランタンを手にとり先をかじった。
冷めてしまったかもと思っていたそれは案外、十分なぬくもりと食感を保っていた。