③
チケットに注いだ視線が少しだけ、険しくなった。
「お姉ちゃんは、『あの人はそういう人』って言うけど。あたしは……なんか違うと思う」
チケットからかすかに視点を逸らして、見えるのは――素直な小動物がうな垂れる姿。
「ファントムお兄さんは、そんな人に見えない。お金のためだけに、有利な商売するなんて」
「チュチュくん――」
感動に軽い眩暈を覚え、ヒューが目頭を押さえたとき、
「そんなちゃんとした生活力、あるように思えないもん」
目頭を押さえたまま、ヒューはずこっと椅子から転げ落ちそうになる。
「それにさ、前は有名なピアニストだったんでしょ? だったらそっちをやったほうがよっぽど、お金も入るじゃない」
ティーカップを置いたヒューは小さく息をついた。
「小さな音楽探偵さんには敵わないな」
音もなくソーサーに戻したのに、アンバーの水面が小波をつくる。
「音楽魔法具店の目的が金銭以外にあるとするならば、それは」
だがそれはすぐに、止水と相成った。
「あるミュージカリー・カップを探していてね。――父が売り払ったものの中でただ一つ、どうしても取り戻したいものがあるんだ」




