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㉚
「きみがしたことは、舞台役者志望としてはよくなかったのかもしれない。でも、人間としてはどうだろうか」
夕暮れ時の光が、ヒューの瞳をガーネットのように赤黒く照らし出したとき、トントンと、部屋に響いたノックの音が、もう一人の訪問者の存在を告げる。
「おっと、思ったより早かったな」
ティナがふと部屋にかかった時計を見上げると、音楽学校が終わる時間だ。
ヒューの視線を受け、レインの代わりに扉を開けると、おだんごヘアの少女が息をきらせて立っていた。
「授業終わりに、ファントムお兄さんとお姉ちゃんがここに入っていくのが見えて! 真相がわかったの?」
「チュチュちゃん」
「ねぇ、レインに才能、返してくれるんでしょう!?」
必死の形相で訴える彼女に答えたのは、部屋の奥にいる彼だった。
「チュチュ。いったいどういうことなんだ? 才能奪われたとか、返すとか……ごほごほっ」
「へ?」
パキリと、白手袋をした右手が指を鳴らす。
それはまるで夜の帳が降りた合図。
「役者はそろった。――謎解きの時間だ」
鳴らしたその指でヒューは、最後の来客を中へと誘う――。