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 幼いながらすでにプロの道を志すその目には自責の念がありありと浮かんでいる。


 なにか言おうとして、ティナは口をつぐんだ。


 舞台を背負っていた者として、そこに安易な慰めの言葉は見つからないし、見つけるべきでもないのかもしれない。




 だが、沈黙をかち割ったのは場違いに明るい声音だった。





「聴いてくれないかな、レインくん」




 探偵の推理披露タイムのお決まりとばかりに窓辺に立ったヒューは、軽やかな調べでも歌うように言葉を並べる。




「一流のプリマドンナが舞台で歌う歌はまるで機械のような精密さと安定した力強さを感じさせる。身体自体が楽器になっているんだよ」




 だが、その言葉たちは決して軽くはない。




「狭き門を目指して、あらゆる娯楽をけずり、最上の舞台を目指す。音楽を志すということはもしかしたら、機械になることに似ているかもしれない」




「……」




 ヒューがかすかに身をよじったことで、うつむいたレインの元に、窓から光が届けられる。





「でもね、音楽を志す者たちはそれでもどこかで人間であることを忘れてはならないんだ」





 かすかに、レインが息を呑む音が、静寂の空間にやけに強調されて響く。





「完全に機械になってしまった者の生み出すものは、もう音楽ではない。呪いの声だ」





 相変わらず窓の外の学生たちに向けたその視線にはどこか自嘲が混じっている。


 そして一匙のぬくもり。


 ティナにはそれが、呪いという言葉に形容される、おどろおどろしいなにかを通ってきたからこそのものだという気がする。




 なぜだ。


 なぜ心にとろりとまとわりついて離れない。




 彼を見つめるティナは一人、自問した。




 ――この人の言葉は、あのときのまま。




 今でもどうしても策略から出たとは思えないあの言葉をくれたときの。




『ティナ』 




『きみの人生はきみのものだ』




『ぜったいに、誰にも譲ってはいけない』

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