㉗
三日後の夕暮れ時。
最後の調査と称してヒューがティナと向かったのは、ハイド・パークから徒歩三分ほどの通りにあるパーヴェル音楽学校の学生寮――チュチュのクラスメイト、レインの住まいだった。
パーヴェル音楽学校の生徒は、その八割が寮住まいだという。
灰色のレンガ造りの厳かな建物。
寮長に許可を得てレイン・シングの部屋の扉をノックする。
「はーい。くしゅんっ」
「レインくん、具合はどう?」
いつもさらさらとなびかせていたダークブラウンの髪を乱し、わかりやすいくしゃみで出迎えてくれた彼に、この質問もないか、とティナは自ら苦笑する。
妹が普段世話になっているお友達を訪問するのにふさわしく、今日はネイビーに黒いレースの入ったワンピースドレスといういで立ちだ。
見舞い品の入ったバスケットを持つティナを見たレインは恐縮したようにはっと身を竦める。
「チュチュのお姉さん……!」
「見たところ、見事な風邪のようだね」
隣で苦笑するスーツ姿に仮面の妙な男に、レインは目をすがめた。
「くしゅっ。……あんたは?」
仮面から右半分だけ覗く口元で、ヒューは微笑む。
「きみの愛を解き明かしに来た、音楽探偵さ」