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 ぺろと舌を出してチュチュは犬のような困り顔をしてみせるが、その様子を見つめるティナの表情から察しても、そう簡単な事態ではなかったのだろうことが想像できる。





「レインにもすごく怒られちゃって。体調管理ができないようじゃいいダンサーにはなれないって。自分のことすら大事にできないやつが、お客さんのこと大事にできるかとも」




 鎮座していたフォークをむんっと掴んで、チュチュは白身魚を口の放った。




「ふらっふらの女の子にそんなに言わなくてもって、むかっときたけどさ」




 だが、もぐもぐと威勢よく動かす頬はどこか優し気に緩んでいる。




「怒った顔で、食えって、くれたのが、ピクルスの挟まった『ベーグル・ベイク』のソルトビーフサンド」




 思わずヒューの目が細くなる。


 ロンドンで有名なファストフード。マスタードが効いたベーグルのもちもちした生地の食感と、ほろほろのビーフのハーモニーが絶妙な逸品だ。





「それがすごくおいしくてなんか、忘れられないんだよね」




 ほっこりしたのは、ヒューだけではなかった。


 体調崩したのもあってけっきょく主役は逃しちゃったけどねと再度舌を出すチュチュの横で、ティナがぱしりと両手を組み合わせる。




「はぁ。胸キュンね~。レインくん、早くチュチュちゃんをさらいにきてくれないかしら」




 フィッシュにアルミホイルでも入っていたかのようにチュチュが顔のバランスを崩す。




「お姉ちゃん、ロマンス小説じゃないんだから」




 とうにナイフを投げ出し、その両手を組み合わせて、ティナはすっかり夢未心地だ。




「あぁぁでも、まだまだチュチュちゃんは、わたしだけのチュチュちゃんでいてほしいし。でも、いつまでも妹離れできなくては、チュチュちゃんの幸せを奪ってしまうかもしれないわね……悩ましいわ!」




「ファントムお兄さんなんとかして」




 チュチュの泣きそうな眼差しをヒューは極めて真剣な顔で受け止める。




「……ふむ。そうだね、ティナ。僕も、愛しい彼の元へ羽ばたく妹さんの背中を押してあげることを勧めるよ」




「ちょっとファントムお兄さーんっ!」


「やっぱり、あなたもそう思う? 辛いけれど、それがチュチュちゃんのためよね?」


「うむ。彼はなかなか……見どころがありそうだ……」




 ああ、どうしましょうとモノローグを続けるティナの傍ら、ヒューはカトラリーを置いて黙り込んだ。

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