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こんがりきつね色の衣を纏った白魚が、ポテトフライに囲まれ、湯気を立てている。
「今日はお姉ちゃん特性フィッシュアンドチップスよ」
「いただきまーす!」
学校を終え、ラフなパーカーに着替えたチュチュが手をあわせる。
テーブルの上のランプが夕食時にほのかな華を添える。
メリルボーン通りにあるアパート。キッチンと隣接した小さなダイニング。
テーブルにはガーベラの一輪挿し。傍らの棚の上には舞台上で決然とした表情を見せるチュチュの姿が――学内公演で活躍したときの写真だ。
「って、どうしてあなたがいるの?」
いかにも不本意そうにしぶしぶと同じ料理をヒューの前に置きながら、ティナが眉をひそめる。
「いいじゃないか、チュチュくんに事情聴取だよ」
まずは食事の香りを楽しむとでもいうようにのんびりと目を閉じながら囁く。
「兼、大切な姉妹の生活ぶりを見届ける任務を果たすためでもあるね」
ポテトをもぐもぐしながらチュチュが言う。
「お姉ちゃん、ファントムおにいさんって、ストーカー?」
「ほんとうにそうなったらしっかり駆除するから、安心して」
目を閉じながらヒューは殺虫剤をふっかけられた害虫のようにしおれている。
「よくわかんないなぁ。調査っていうわりに、さっきあたしの部屋案内したときは窓から身体乗り出して外の夕焼けばっかり見てたよね?」
ふふんとヒューは余裕で微笑む。
「きみにはまだ、音楽探偵のいろははわからないかな。――都会の風光明媚を楽しむというのがその第一か条に来るもので」
「そんなどうでもいいことよりチュチュちゃん、しっかり食べなくちゃだめよ。役者は身体が基本」
「へへ、わかってます」
どうでもいい、という言葉のナイフをくらったヒューが心の傷口を押えつつ、尋ねる。
「そう言うティナも、ちゃんと食べているかい? 現役の頃よりウエストのサイズが一センチと三ミリダウンしているじゃないか」
白身魚に入れていたティナのナイフが止まる。
「どうしてそれを」
しごく当然のことのように、ヒューはナプキンで口元を拭っているが。
「いけないよ。昔から働くものはたらふく食うべしという言葉があるように、女性がやせ細ると世の中ろくなことがない――きみはまだまだ、世の中で脚光を浴びる存在なのだから」
どの口が言うかと返したくなるセリフも、その瞳を見ているとどうにも、嘘にも冗談にも見えないのが妙だ。
ごくごくとアイスティーを飲み終えると、チュチュはじっと正面に座っているヒューを見つめた。
「お姉ちゃん、ファントムお兄さんって、変態?」
「ほらほらチュチュちゃん、話逸らさないで、しっかり食べて。前のようにいつまた食事減らすとか言い出さないかって、こっちはびくびくしてるんだから」
やや油のついた口元をぺろりと舐め、チュチュが困ったように笑った。
「もうしないよ。ほんと心配症だなぁ」
「――差支えなければ、訊いてもいいかな。そのときのこと」
急に差し挟まれた神妙な口調に、図らずも姉妹は沈黙する。