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 ルーカスはしばらく目をすがめバロタン・ボックスを吟味すると、首を横に振った。

「いや。だがいかにもこいつが好みそうな品ではあるよ。ショーだとこういうバエるもんを持ってこさせることが多いからな」

 そう言うと、途方に暮れたように頬をかく。

「こいつは性格は素直だし、芸だって今までよく覚えてくれた。うまくしたら公園のシンボルになれる存在だと思うからさ。みんなから疎まれちまうのは、本意じゃねぇっつうかさ」

 黒い困惑顔の中に覗く、ぬくもり。

 知らず、ティナは笑顔になっていた。



「好きなのね、スコットのことが」

 ふいに、ルーカスが口をつぐむ。

 違いないだろうねと、すかさずヒューがさきをひきとった。

「公園のペリカンには遠くに飛んでいかないように翼の一部を切断している。が、この子は断翼をしていない。飼い主の愛情を感じさせる事実だ」



 ティナが目を見開いて振り返る。

 そこまでは気がつかなかった。

「そりゃ、まぁ……。こいつとはいい仲間でいたいからな」

 自分のことが話題の渦中にのぼっていることなど眼中になしというように、きょろきょろとよく動く目玉でグリーナリーを見渡すスコット。

 ティナがそっとその頭に触れてみれば、存外素直に撫でられていた。


「ただ、精神が不安定なのかもしれない」


 指示されたことをやみくもに繰り返してしまう行為。

 喉元だけに見せる震え。

 彼の仕草に見え隠れするもの。それは――。


 スコットに触れるためかがんだティナは、その顔をルーカスに向ける。


「もしかしたらこの曲は、この子のお好みではないのかもしれません」


「……へ?」


 口をひんまげできょとんとするルーカス。

 立ち上がって視線をあわせ、ティナは説明する。


「近年では、動物にも音楽療法の効果があるという研究結果もあるの。動物によって音の好みがあるのよ」


「へっ。……えぇ?」


 なにを言われているのかわからないというように目をひんむく彼に、ヒューが補助役を買って出る。


「まんざらいい加減でもない。彼女はプロのミュージカル女優だ。あのハー・マジェスティーシアターにも主演したことがある」


 本日最大級の驚嘆声を披露しろうになる彼を押し留め、ティナは問いを急いた。


「スコットはどこから来た子かしら?」


「えっと。アフリカの湿地が出身だって」


「きっと天敵も多くいたことでしょうね」


 再び視線を落とせば、スコットは大きなくちばしを開いて高らかに鳴いた。


「なるほど」


 視線のさきを同じくするヒューが、言葉をひきとる。


「ペリカンの天敵といえば、低い声で唸るように鳴く、南国のワニといったところかな」

 飲み下すようにゆっくりと、ティナが頷く。

「低く激しい音は、この子のトラウマになっている」


「ヒュー」

 決然と、ティナは上司を仰ぎ見た。

 帽子の下にまとめた蜂蜜色の髪が、陽光を反射して翻る。

「後日また彼を訪ねたい。この公園がいいわ」

 豊かな水をたたえたサーペンタイン池を前にするように、雇い主は満足げに微笑む。


「なにか、考えがあるんだね」


 素早く頷くと、ティナはルーカスに向き直った。

 

「ルーカスさん。三日後、今日のショーのお礼をさせていただきたいんです」


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