⑳
「どういうこと?」
ティナの問いを受けたのはイケイケの彼だった。
スピーカーとつないだスマホを操作すると。低いドラムの音が流れ出す。
アクション映画で使われるようなスリリングな音楽だ。
飼い主の男性の指示でペリカンのスコットはダンスのように羽を左右に動かしたり、公園を自在に羽ばたいて戻ってきたり、最後はジューン・ベルをとってきてそのくちばしからティナに渡した。
「まぁ、すごい」
イルカやペンギンなんかのショーは水族館で見たことがあるが、ほんとうにペリカンの芸をする人がいるとは。
こうしてみると、コミカルで愛らしい動物だ。
とくに丸い頭を飼い主の膝に何度か打ち付ける姿は笑いを誘う。
さきほど怖いと感じたのがうそのようだ。
スコットからジューン・ベルを受け取るとき、ティナはあることに気づいた。
見事な演技を披露したそのペリカンの喉元がかすかに震えているような――。
「これが、オレの仕事さ」
「きみが、ルーカス・ジェファーソン氏だね。最近ネット上でも話題になっている。ハイド・パークにペリカンの芸をする男性が現れたと」
へへっと男性――ルーカスは照れたように鼻の下をこする。
「こいつらはこんなツラしてるけど、かなり頭がいいんだ」
だが次の瞬間、イケイケにぎらぎらした瞳に、ほんの少しのかげりが生まれる。
「……ショーの一環で、お客さんの持ち物――とくに高価そうなものをとってくるっていうのがあるんだけど。成功するたび褒美の魚をやっていたから、癖になっちまってな」
このとおりよ、とルーカスが指し示す大木の下の穴にはたくさんのガラクタ。おもちゃの装飾品や工具、ハンカチなど。
ルーカスはその中から金のイアリングをつまんでティナに手渡した。
「悪かったな。これ、あんたのだろ?」
「あ。どうも……」
たくましい腕を腰にあて、途方に暮れたように首を一周させる。
「持ち主がわかる分は返したんだけど、次から次へ持ってきて。困ったもんだ」
三つ編みをいくつもつくった頭をかきながら言うルーカスにヒューが確認する。
「では、先日オルゴール店『フォルマシオンデイズ』の品物をとってきたのも、彼かな」
あちゃっそれ知ってたか、と彼は歪めた顔に手をあてた。
「あのときは店主の人が許してくれたからよかったけどな」
ヒューは鞄から、リボンとバラの柄のバロタン・ボックスを取り出す。
その途端に、スコットが高くいなないてオルゴールに向かってくる。
「おっと、これはだめだよ。ペリカンくん」
「こらっ、スコット。ったくまだ懲りちゃいねえ」
軽くその白い額を押し留めると、ヒューはルーカスに問うた。
「この近くのメリルボーンのアパートにあったオルゴールなんだが、見覚えはないかな」