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傍らのティナは思わずえっと声を漏らす。
「回収した商品に破損がないか念入りに確認しているの」
物騒な単語を繰り出したわりにジュリアはくすくすと笑っている。
「すぐにすまなかったって返しにきてくれたのよ。犯人が。……いえ正確には、犯人の飼い主がね」
ヒューはひたとその目をジュリアに据えた。
すがめられた菫色の濃度が増す。
「動物が犯人、ということかい?」
「ごめんなさい、これ以上は勘弁して」
ジュリアは顔をくしゃっとさせて笑いながら手をあわせた。
「飼い主の人、弁償は持ち合わせがなくて難しいけど店の掃除でもタダ働きでもなんでもするって恐縮するほど謝っちゃって。責めるようなことはしたくないの。――それに」
両肩を竦めて、ジュリアはあっけらかんと笑った。
「犯人のその子もきっとうちの商品の音楽が気に入ってくれたんだなって思ったから」
思わずくすりとティナが笑いを零す。
「すてきな店主さんですね、ジュリアさん」
「えっ?」
大スターに褒められて目をまん丸くして頬を赤らめる彼女に、ヒューも頷く。
この店の評判が上々なのも、買っていった人の人生が小さな音楽で少しでも上向いてほしいという彼女の志あってのものだろう。
菫の瞳が午後の日光を反射してウィスタリアにガーネット、ボルドーにと色を変えながら多面的に蠢く。
「レディ、ご協力ありがとう」
ヒューが目礼して扉に手をかける。
小さく頭を下げ、ティナもそれに続いた。