⑭
「――うちの品物に、ミュージカリー・カップが紛れ込んでいないかって?」
話を切り出されたジュリアは心外とばかりに瞳を大きく見張る。
「冗談でしょ。ここのオルゴールは一つ一つ職人が作ってるの。才能を奪い取る道具なんて、そんな怪しげなものなんか一つたりともないわ。保障できる」
深く首肯するも、ヒューは食い下がる。
「では、貴店の商品を購入した人が、音楽の才能を吸い取られた、もしくは、才能が突然芽生えたという話はないかな」
「そんなの。――いえ、待って」
即座に否定しようとしたジュリアがふいに細い眉をすがめたとき、景気のよいドアベルの音が来客を告げた。
ガラスの扉が開くと同時に、ジュリアは目線でティナたちに詫びると、やってきた青年の応対に舞い出る。
「やぁジュリア」
ウェーブがかったグレイの髪をした青年だ。
肩から斜めがけにしているのはパーヴェル音楽学校の紋章の竪琴が描かれた鞄。
年齢は十代後半――上級生のようだ。
首から下げた細長く黒い入れ物には楽器が入っているのだろう。
チュチュちゃんの先輩にあたるわね、とティナは類推する。
「いらっしゃい。このあいだはお買い上げありがとう。クラリネットの技術テストはどうだった?」
ジュリアに愛想よく声をかけられるなり、青年はぱしりと、クラリネットケースの横のたくましい胸をたたく。
「ばっちりさ! いや、不思議だよ。このところずっとよく眠れないし食欲も出なくて参ってたのに。ここで気分転換用にオルゴールを買ってからすごく調子がいいんだ」
そんなふうに報告すると、照れたようにこめかみをかき、先生にも実力以上の結果だって言われちゃったよ。いいんだか悪いんだかね、と苦笑する。
「いいに決まってるじゃない。ここは音楽の発展に寄与するためのオルゴール屋ですからね」
腕を組んで重心を右にあずけ、勝気な笑みを浮かべるジュリアに、青年は手をふって応える。
「はは。ありがとう!」
「今日はなにか見ていく?」
「いや、一言お礼が言いたくて。また楽理の試験が終わったら来るよ!」
「待ってるわ」