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「――うちの品物に、ミュージカリー・カップが紛れ込んでいないかって?」


 話を切り出されたジュリアは心外とばかりに瞳を大きく見張る。


「冗談でしょ。ここのオルゴールは一つ一つ職人が作ってるの。才能を奪い取る道具なんて、そんな怪しげなものなんか一つたりともないわ。保障できる」




 深く首肯するも、ヒューは食い下がる。




「では、貴店の商品を購入した人が、音楽の才能を吸い取られた、もしくは、才能が突然芽生えたという話はないかな」




「そんなの。――いえ、待って」




 即座に否定しようとしたジュリアがふいに細い眉をすがめたとき、景気のよいドアベルの音が来客を告げた。




 ガラスの扉が開くと同時に、ジュリアは目線でティナたちに詫びると、やってきた青年の応対に舞い出る。




「やぁジュリア」




 ウェーブがかったグレイの髪をした青年だ。




 肩から斜めがけにしているのはパーヴェル音楽学校の紋章の竪琴が描かれた鞄。


 年齢は十代後半――上級生のようだ。


 首から下げた細長く黒い入れ物には楽器が入っているのだろう。


 チュチュちゃんの先輩にあたるわね、とティナは類推する。




「いらっしゃい。このあいだはお買い上げありがとう。クラリネットの技術テストはどうだった?」




 ジュリアに愛想よく声をかけられるなり、青年はぱしりと、クラリネットケースの横のたくましい胸をたたく。




「ばっちりさ! いや、不思議だよ。このところずっとよく眠れないし食欲も出なくて参ってたのに。ここで気分転換用にオルゴールを買ってからすごく調子がいいんだ」




 そんなふうに報告すると、照れたようにこめかみをかき、先生にも実力以上の結果だって言われちゃったよ。いいんだか悪いんだかね、と苦笑する。




「いいに決まってるじゃない。ここは音楽の発展に寄与するためのオルゴール屋ですからね」


 腕を組んで重心を右にあずけ、勝気な笑みを浮かべるジュリアに、青年は手をふって応える。


「はは。ありがとう!」


「今日はなにか見ていく?」


「いや、一言お礼が言いたくて。また楽理の試験が終わったら来るよ!」


「待ってるわ」

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