カーテンコール ①
『音楽魔法具店』の赤茶色のピアノが、軽快な曲を奏でる。
真夏の朝の日差しとイングリッシュローズの香りが窓辺から差し込み小舞台に華を添えるその日。
ヒューの伴奏でティナが歌っていた。
観客はたった二人。チュチュとレインだ。
ミュージカル『マンマ・ミーア』から、『スーパー・トゥルーパー』。
忙殺される日常に疲れた地位ある歌手が、愛するたった一人がステージにきてくれたことで最高の気分になるという曲だ。
オーロラのように神秘的で、それでいて甘やか、包み込むような声音が、店内を満たしておく。
今日もステージライトが目をくらます
でもいつものようにブルーにはならないの
客席にひしめく人混みのどこかに
あなたがいるから
見事歌い上げたティナに惜しみなく贈られるは、未来の音楽家たちの拍手。
くーっと声を上げながら、レインは噛み締めるようにソファを立った。
「やっぱプロは違うな! ティナさん、どうやったらあんなふうに高音が伸びるんですか? 地声と裏声の切り替えも絶妙だったけど、コツは――?」
興奮する少年に軽く手を振って応えながら、ティナは柔らかな笑みを見せる。
「ありがとう。でも、しばらく使わなかった声だから、だいぶなまってるわ。現役時代の感覚に戻すにはまだまだ訓練が必要みたいね」
和気あいあいとした空気の中でただ一人、粛々とソファに沈み込んだままの観客がいる。
チュチュだ。
「おい、お前。……なんで泣いてんの?」