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小首を傾げるティナを前に、彼は再び壇上で言を放った。
「みなさん。本日はお集まりいただきありがとうございました」
「僕には愛する人がいます。そういうわけで、オリーブ・ムーア嬢との婚約は無効です。お騒がせして申し訳ありませんでした。お許しいただけますか」
しんと静まり変える会場の中、甲高い声が響いた。
「異議なし! 婚約破棄、賛成!」
背の低いのをカバーするかのようにぴょこぴょことおだんご頭を上げ主張する、それはチュチュだった。
「異議なし!」
なぜかそのとなりにいるレインが、拳を突き上げる。
「異議、ありません!」
今度響いたのは、愛らしい少女の声。
来ていたエイプリルの隣で、ジャクリーンが控えめな笑顔を見せている。
「異議があるはずないわ! おめでとう、ティナ!」
ジャスパーの横で、キャスが腕を突き上げた。
顔見知りがこの場に多くいたことに驚き、ティナは目を見張るばかりだ。
「みんな、心配して来てくれていたっていうの……?」
どうしてと問う彼女に答えたのは、傍らの彼だった。
「当然さ。きみが、魅力的な人だからじゃないか」
断定口調に告ぐさらなる断定口調で告げられたのは。
「愛している、ティナ。――もう一度、僕と時を過ごしてほしい」
歌姫らしくなく表情を崩し、
「ばかね」
ティナはヒューの胸に飛び込んだ。