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㉙
舞台上に押し出されたティナは呆然と、拍手喝采する人々を眺めた。
――どうしよう。
どうしようもないことをそれでも、脳内で自問する。
イシャーウッドにそそのかされ、ミュージカリー・カップに歌声を明け渡してから。
歌おうとするとかすれた声の一つすら、出ない身体になっている。
体調不良だとか、適当なことを言ってごまかすしかない。
かつての歌姫も落ち目だとか、囁かれたとしても。
意を決し、ティナが口を開きかけた、そのとき。
壇上を駆け上げる者があった。
ストレートグレイの髪に、菫色の瞳。
相変わらず、半面には仮面をつけて。
黒いタキシードに、青いバラを指した、本日の主役のもう一人。
いつものごとく食えない微笑を湛えて、ヒューはマイクの前に立った。
「みなさん。今夜は歌姫の別の一面をお目にかけます」
ざわつく聴衆とともに、ティナは首を傾げる。
「歌姫は、ダンスも得手でした」
そう言ったかと思えば、白い手袋に包まれた
「踊ろう、ティナ」
にっこりと、ヒューは笑いかけてくる。