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 ティーアーンにうずたかく積み上げられた輝くスイーツやスコーン、ブレッド。


 サーモンのマリネやオムレット、ローストビーフなど、心躍る品々。




「あーおいしい! 最高ね!」





 鴨のステーキを頬張りながら、ティナは拳を振り上げた。




「お姉ちゃん」


「あらチュチュちゃん、それっぽっちしかとってきてないの? こんなにどっさりあるんだから、ほらもっと食べなさい」


「お姉ちゃん」


「あ。さてはスイーツばっかりたくさん食べるつもりね。だめよ~、ちゃんとご飯も食べないと」




 姉が弾丸のように言葉を発するのは、止まると倒れてしまうからだと、わかってくれていたからこそかもしれない。


 ナイフとフォークに手をつけぬまま、チュチュは言った。




「泣いていいんだよ」




 やたらめったらテーブルの皿の上を駆け巡っていたナイフとフォークが、ぴたりと静止する。




「チュチュちゃん」




 ほんの少し視界がにじむ目を、あわてて見張る。




 一人前に、姉を慰めるなんて。


 つくづく、妹は侮れない。




 ――だめだめ。




 思い直して、ティナは歯を食いしばる。


 こんな公共の場で、やっぱりそれはだめよ。


 元とはいえ歌姫たるもの常に背筋を伸ばして、凛として。


 いつだって人に見られていると思いなさいと教えられた。


 それに。




 かすかに潤んだ瞳をティナは細める。




「わたしは父さんと母さんからあなたを守るように任されてる、お姉ちゃんだもの」




 でもと、ティナはふいに零れたその一筋を、レースのハンカチで拭う。




「そんなチュチュちゃんが大好きよ」


「……むぐっ」




 刺激を受けたように、チュチュがおいおいと泣き出してしまった。




「うっ。うう~っ」


「もう、どうしてチュチュちゃんが泣いてるの?」


「むっ。ひっく。ううっ……」


 むんずとフォークを掴み、メインも前菜もデザートもごちゃまぜにして胃に収めていく。


「おいしい、おいしいよお」


「ほらほら、そんなに急いで食べたらだめ」


 妹の行儀を笑ってたしなめながら、ティナは思う。


 来てよかった。

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