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「お姉ちゃん! 早く早く!」
ピカデリー・サーカス界隈にあるホテル『ドルチェ』エントランスの赤い階段をチュチュの黒いローファーが軽やかに駆け上がる。
季節はいつしか八月――夏真っ盛りであった。
休日の今日はここで、姉妹仲良くランチビュッフェだ。
ロビーを抜け、階段を通り、ところどころゆりの花が飾られた豪奢な花瓶が点在する白亜のアーチで囲まれた回廊を進む。
「こないだすっぽかしちゃったお詫びに、今日はとことんお姉ちゃんを楽しませるから!」
トレードマークのおだんごに黒く大人っぽいシュシュを飾ったチュチュは紺色のプリッツスカート、同色のジャケットに朱鷺色のネクタイ。
「もう、調子いいんだから」
ティナはいつものシニヨンにまとめた髪に真珠を散らせ、クリーム色にレースのタイトワンピースという装いである。
「ようし、いっぱい食べるぞ! このために朝食抜いたんだからね! 伊達に奮発してないからね!」
「くれぐれも、たくさんとりすぎて残すなんて、マナー違反はだめよ」
「あっ」
「――あ」
和気あいあいと豪華な空間を進んでいたローファーとパンプスが、ぴたりと止まる。
通りかかったある大広間の前の、小さな看板。
黒い盤の上に、カスミソウやバラや、色とりどりの花々が飾られたそこには、こう書かれていた。
婚約披露パーティー会場
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