⑥
しみじみと呟かれた言葉に、ティナはむすっと、口元を歪める。
「あなたが何人とつきあっているかなんて知らないし関心もないけど」
「きみとつきあって以来、こんな風変わりな半面の男を好いてくれる女性など皆無だよ」
ティナは目の前のふざけた男を見やる。
へらへらしているし、緊張感がないし――過去に酷く傷つけられた。
そういう男だと思う。
けれどいつも。いつでもふとした瞬間。
真摯な瞳の中に、柔らかな光が宿る気がしてしまう。
「――過去の想い出だけで十分、僕は生きていける」
その言葉が軽いと、感じることがどうしてもできない。
「響かないかもしれないけれど、きみには感謝しているんだ」
軽いはずの言葉はいつだってこの胸に浸透して。
「ティナ。きみは僕の人生で、恋というものに」
深く深く、刻みつけていく。
「いや、人間というものに、すばらしい印象を刻んでくれた唯一の人だ」
……ほんとうに響かないことを。
よくもまぁそんなふうにしみじみと情感込めて語れるものだ。
頭のうわべの部分ではそう、思うのに。
ティナはかぶりを振った。
だめだ。
今夜は特に、心が言うことを聞かない――。
酔いに重くなった額を抑えたとき、ポロンとポップな電子音が響く。
クラッチバックからスマホをとりだすと、キャスからメッセージが来ていた。
「『報告。ジャスパーとつきあうことになりました』――!」
ティナの中でちゃぷちゃぷと、アルコールの粒が光、揺れる。
「ひゃっ、すごい。よかったぁ。きっとこうなる予感がしてたの」
再びしたポロンという電子音に、ティナはスマホを見やる。
「『追伸。ティナも早く彼をつくって、ロンドン巡りダブルデートできるといいわね』」
弾んだ波はなえ、とっぷりとティナは息を吐く。
「……友の歓びは嬉しいものだけれど、矛先を我がことに向けられるのは複雑だわ」
「なぜだい? 僕がきみなら、これは自分の近くにもいい波がきているな、とラッキーを察知するけどね」
ヒューは相変わらず穏やかに微笑んでいる。
「ついでに目の前のいい男に迫ってみたりなんか」