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 ティナはじっと目の前のヒューを見つめる。




 笑顔を消した菫色の瞳には決然とした堅牢さがある。


 彼にも、秘めた想いがあるのか。




「わがままを、許してもらえるだろうか」




 かすかな吐息とともに、ティナは首を振った。




「もう、いいわ。あなたのわがままは今に始まったことじゃない」




 くすりと笑いを零し、ヒューは目の前のサンデーローストにナイフを入れる。


「話題を変えようか。チュチュくんの様子はどうだい?」




 首をふり、ティナはどうにか表情に笑顔を取り戻した。




「レインくん、次の秋公演でまた主役を射止めたんですって」


「へぇ、それはすごい。相手役はチュチュくんがやるのかな?」


 前菜のサラダをフォークですくいつつ、ティナは首を振った。


「残念ながら逃したそうよ。惜しかったわ。本人も悔しがっていた。もう少しで舞台の上でレインくんと恋人同士になれたのにねって言ったら、『げっ、そうじゃん。ヒロイン逃したのは悔しいけどそれはかんべん』って真っ赤になっちゃって」


「相変わらず愛らしいなぁ、ははは」


 シャンパンの粒がグラスの中で曲線を描いて上昇していく。


「そうそう、今朝ジャクリーンからお礼状が届いたよ。宛名にきみの名も添えてあった。


 妹さんをみてくれる脳腫瘍の名医が見つかったそうだ」


 グラスを傾けたティナの頬は、ほんのりりんご色に染まっている。


「よかった。長い闘いになると思うけれど、なんとか回復することを祈るわ」


 姉のジャクリーンの覚悟を間近で目にしたから。想いは天に伝わると、信じたい。


「でもあのときは、さすがに肝が冷えたわ。広い湖に個室ごと流されそうになって。あなたが来てくれなければどうなっていたか」


 三分の一ほど量が減ったローストにさらにナイフを入れながらヒューの眉が上がる。


「おや、雄々しく立ち向かっていたように見えたけどね。キースに啖呵をきっていたじゃないか」


 ティナはさっと顔を赤らめ、目を閉じる。


「女性の強がりに気がついてあげられないようじゃ、恋人にも嫌われるわよ」


 少なくはない量のシャンパンを喉に流し込んだヒューは、ふいに言葉を零す。


「恋人か。僕にはもう十分なものだな」

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