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④
信じられない思いで呟いたその言葉にも、顔を背けられてしまう。
だが、その返答は。
「当たり前でしょ。あなたがいなくなったら、誰がわたしのお給料を支払ってくれるの?」
ふぅ、と吐息をロンドンの夜風に紛れさせ、
「――ありがとう」
一言、ヒューは呟いた。
菫色の瞳に、ロンドンの都市の生み出す光の粒が入り込んでは消えていく。
「ずっと捜していたものに、ようやくたどりつけそうでね」
安住の地を見つけたとでも言うような、安らかさをほのかに残して。
ヒューの瞳が再び、ティナを捕らえる。
「それが片付いたら、しばらくはロンドンにいるさ。きみといっしょに、音楽魔法具店の仕事をきちんとする。――それまでは、ちょくちょく出かけることが多いが。すまない」
眉をすがめ、ティナが問う。
「捜していたものって?」
ヒューがにっこりと深く笑んだ。
「大事な、僕の宝物」
「……」
「しばらくいろんな悪党たちの手を渡り歩いていた。だが、なんとしてでも取り戻す」