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 一応、心配してくれていたのか。

 この少年の前だとなぜか、小さいことにこだわっていたのがどうでもよく思えてくるのが不思議だ。

 気をとりなおしてチュチュは、姉の誕生日プレゼントについて考えていたことを話した。

「お姉ちゃんの誕生日に、すてきなバロタン・ボックスを見つけたの。それ、オルゴールもついてて。メリー・ポピンズの『最高のホリディ』」

「へー」

 思いのほか真剣な眼差しが、蔦の向こうの校舎の中、楽器の自主練に励む生徒たちに向けられる。

「チュチュのお姉さんって、有名なプリマドンナだったんだろ? ぴったりじゃん」

 頷きつつも、チュチュの視線は真下のコンクリートに落ちた。



「でもお姉ちゃんは一年前、ミュージカル女優を辞めちゃったから。それからぜんぜん歌わなくなっちゃって。どうしてか話してくれないし」



 じっと聴いてくれるレインの目線がなぜか心地よくて、いつしかチュチュは、自分自身にすら禁じていた言葉を呟いていた。


「……もう音楽は好きじゃないのかも」


「そんなお姉ちゃんにオルゴールなんて。喜んでくれるかな」



 視線を同じく斜め下に落としじっと耳をかたむけていたレインは、ややあって、そっかと答えた。


「……オレは、いいんじゃないかと思うな」

 入道雲が去り、光に照らされた蔦が光り出す。



「オレたちって、音楽とかダンスが好きでこの道にいるだろ。けど、それを将来の目標に定めたとたん、しんどくなる時がある。小さいうちから一日中稽古して、重なるレッスン代積んで。そうしても舞台に立てるのはほんの一握り。オーディション落ちるたびに、ゴールとのあいだに隔たってる果てしない階段の数が十段くらい増えるみたいに思えて」



 ゆっくりと紡がれるレインの声が、雨のように心に染み入っていく。

 数々の子役オーディションに落ちてきたチュチュにとっては、深く首肯できることだった。



「オレもさ、一年くらい前かな。ぜんぜん結果出なくて、もういやだって、ぱたっと練習しなかったことがあったんだ」



 急に強さを増した日光に目をすがめ、チュチュは問い返す。

「レインが?」

 成績もトップで、学内公演では常にスター街道まっしぐらのレインが。

 どんなに小さな公演でも、またどんなに小さな役でも、出張公演の前は必ず劇場を下見に行って、音響や雰囲気を確認するくらい真面目で。

 ミュージカルの練習ではいつだってみんなをひっぱって、励ましている彼が。

 信じがたかった。

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