思春期の勇気
注意。
主人公はそれほど主人公ではありません。
世界に大きな変化があった。
科学技術全盛だったこの世界に、突如としてサブカルチャーでファンタジーな概念のダンジョンが、世界各地に出現し始めたのだ。
このダンジョンと呼ばれるものは科学技術的な攻撃手段が全く通用しない、現代とは全く違う概念の存在だった。
現有の武力はダンジョンに出現する通称【魔物】によって、壊滅どころか絶滅に追い込まれた。
武力に対抗できない武力など、どれだけあっても意味がないからだ。
そしてそれで魔物への有効な手段を模索している最中、ダンジョンから【魔物】が溢れる大災害が起きた。
これにより世界の人口は半分にまで落ち込んだ。
この事件により世界は混乱の渦へ。
この時期は将来的に【ダンジョン混沌期】と呼ばれるようになった。
そんな酷い時代を、人間は強要されたのだ。
…………。
………。
……。
と言うのは昔の話。
ダンジョンとその中の魔物への対抗策も確立し、大体の混乱もおさまり、ダンジョンをどう上手く使っていくかの時期の話。
〜〜〜〜〜〜
やあ! 俺はダンジョン・ダイバー、略してダイバーの資格を取れる年齢になったから早速取得した、漫画に出てくるワルにちょっと憧れる高1の平凡な男子だ!
なんで高1の年齢かって言えば、義務教育が終わったからだって。
生活が苦しくて高校へ行かずに働く人、働きながら高校へ通う人の手っ取り早い収入源として、この位の年齢から取得出来るようにしてるんだって。
……まあその辺の話はいいや。
それで俺はダイバー資格を取って初めてのダンジョンダイブなんだけど、初挑戦の場所にこの国で1番有名なダンジョンに挑戦してみようと思ってる。
場所は同じ市内で歩いていける所だから、とても助かる。
そのダンジョンへの移動中に、ちょっと物思い。
そのダンショとは、真っ当なダイバーもダイバー協会も口を揃えて、行くのは絶対に止めておけと強く止めてくる超危険地帯。
超危険地帯と言ってるくせに、出てくる魔物はちょっと特殊な攻撃してこない無害なスライムと、他のも直接的な武力が無い魔物だけだって。
構造だって1層しか確認されてない超狭いダンジョンで、中も基本は沢山の部屋と碁盤目状の通路しか無いって聞くほどに単純。
なのになんで危険と言われているか。
それはダンジョンの仕掛けが特殊すぎるから。
ダンジョン入口を通った脇に、自販機や券売機を思わせるギミックが有って、それに本物のお金を払って出てくる使い捨ての鍵を入手。
その鍵をダンジョンで徘徊しているどんな攻撃も効かない特殊なスライムへ突き刺すと、スライムを倒せる。
そして倒したら、コインか小さな鉄球が決まった数だけ出てくる。
それらを拾ったら、沢山ある部屋のどれかへ。
各部屋には宝箱がデデン! と置いてあって、宝箱はギミックの解除で凄い物が入ってるって言う中身が得られるんだって。
で、その宝箱のギミックだけど、ダンジョンがこの世界に出てくる前は人気だったけど、法律で規制されたら人気がなくなってごく僅かしか生き残っていないらしいパチ○コとかス□ットゲームみたいなもの。
宝箱の上部にあるパネルを使って、鉄球かコインかの対応したゲームをして、中身を狙うってダンジョン。
一応ダンジョンにはゴールになるボス部屋が絶対にあんだけど、ここのボス部屋は入口から真っ直ぐ行った所。
でもそのボス部屋へ行くには、ボス部屋唯一の通路を塞ぐように場違いにしか見えない、機械人形っぽいのがマスターをしているバーが有るんだって。
で、そこのお酒を1杯飲むのがボス部屋への
侵入条件。
そこで待っているのは、様々な姿をしたサキュバスとインキュバスの大群。
サキュバスと聞くだけで男子中高生は興奮間違いなしだろうけど、俺も興奮したけど、すぐ平常心に戻った。
その2種類はあまり強くなくてベテランなら簡単にまとめて倒せるはずなのに、なぜかこのダンジョンをクリアした人の記録は無く、とても危険らしい。
これじゃあサキュバスドリームなんて期待できそうにないと分かったから。
調べたのはそこまで。
その調べた結果、ボス部屋に行くまで危険な魔物はいないから装備は不要で、装備は宝箱から入手すれば良い。
それで装備を整えたら、ボスに向かう。
だから今は何も無い、無手でいいんじゃないかと判断した。
「入口前に到着。 ……ん〜、普通はダンジョン入口にはダイバー協会の出張所が置いてあるって教わったけど、ここは無いのか」
入口を見た感じ、ダンジョンを何度か封鎖した跡があるけど、それを何度もダイバーが壊して入ってる印象。
実際に今の入口はバッチリ開いていて、封鎖に使った真新しくもボロボロになった資材が虚しく地面に転がっている。
こんな少し荒れている感じなんて、ワルにちょっと憧れる俺にとっては、最高のお出迎えじゃないか!!
「…………でもなぁ」
素晴らしい光景に胸が踊ったけど、すぐ急激に冷めてしまった。
あくまでもワルにちょっと憧れが有るだけで、踏み込む勇気は無かったりするから。
それにダイバー出張所はダンジョン内での治安維持組織の面もあって、それが入口前に無いダンジョンって事は、無法地帯に近い場所であるって意味だと資格の講習で聞いた。
こんな危なさそうな所に挑むための、足が動こうとしない。
心なしか足がガクガクしてる感じもする。
「……でも」
ふと、口をついて出てきた言葉。
「それでも」
以前見た古いアニメの言葉が、ここでなぜか思い浮かんだ。
「それでもと、言い続ける……」
これは魔法の言葉だ。
どんなにピンチだって、ただ「それでも」と言ってみるだけで、闘志や勇気が湧いてくる。
なんとかなるって気持ちになれる。
「それでも……上等だ。 クリア第1号を目指してやる。 まずは宝箱を開けて、その中に強い装備を見付けられれば俺の勝ちなんだ。 やってやる」
ガクガクしていた足はまっすぐしっかり力強く俺を支え、進もうとしなかったのが嘘だったみたいに、俺の気持ちに応えてくれる。
「さあ、挑戦してやるぜ! 待ってろよ、宝箱達!! 俺のダイバー最強伝説はここからスタートだっ!!」
超強い装備を入手してこのダンジョンを楽楽クリア出来るようになったら、ボスのサキュバスの中の1体を貰えたりしないかな?
大方の予想通り、思春期らしい欲を抱えた青少年は帰らぬ人となりました。
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蛇足
ダンジョンについて
実はダンジョンマスターがいるらしい。
こんな狡猾なダンジョンを作る以上、それなりに知能が高いと思われる。
思春期ゆえ?
期待で胸がいっぱいだったっぽい主人公は、こんなギャンブル依存症やそれ以上にヤバい依存症になってそうな人がいっぱい居そうなダンジョンに、自身を直接害せる魔物はいないだろうと無手で挑みました。
その結果、パ○やス□をするためのコインや鉄球を手に入れたら、それらが欲しくてたまらないギャンブルジャンキーどもにエサとして見られて強奪されるのは自明の理。
命を落とすのは必定でした。
宝箱
既に廃れたパチ○コ台やス□ット台その物の機能を持った宝箱。
中身欲しさに手を出し、景品を売って得る収入の高さに魅せられ、宝箱の中身を得る目的より宝箱のギミックに魅せられるジャンキーを量産する魔性の宝箱。
お陰でダンジョン内は、常に様々な気持ちがこもった叫び声が響いているらしい。
ボス部屋前の酒場
予想通り、出される酒には即効性で気持ちが昂る効果があるらしい。
薬を溶かし込んだ酒ではなく、酒そのものにそんな効果がある。
ボス部屋
中にいるのは様々な性癖に突き刺さる、様々な姿や性格をしたサキュバスやインキュバス。
1対1 ではなく、1対多。 事前にアレな酒を呑まされた大変危険な状態で。
攻撃して倒すって思考を奪われた状態のダイバーが、そんな場所へ飛び込んだらどうなるか、考えるまでもないだろう。