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和香様の悪戯

今回は雨子様と和香様の思わぬ関係性が分かります

「そしたらそろそろ繋げるけれどもええかな?」


 和香様が僕たちに可否を問う。僕自身に出来ることは何も無いので、雨子様を見るのだけれど、雨子様は黙って頷くだけ。


 同じこの家というか、隣の部屋には葉子ねえ達が寝ていると言えば居るのだけれども、少なくとも和香様が大丈夫と言うからには疑う余地もないだろう。


 和香様が何気に手を一振りすると、部屋の中央辺りの空間に何やら小さな水槽のようなものが生まれた。


「これはねえ、行ってみたら投影見たいなもんなんよ。実際にはここから遙か離れたところに今回の主役達には来てもろうてる」


 時が経つうちに水槽のガラス辺に当たる輪郭がゆっくりとぼやけて消えていく。


「そろそろお出ましやね」


 和香様がそう言い終わるか否かの時分に、輪郭が完全に消失し、その代わりに猫の頭らしきものが現れ始めた。


「なんぞあれは?」


雨子様が些かあきれ顔で見ている。


するとその猫の頭らしきものが


「ニーッ」と鳴いた。


「え?猫?」


僕が戸惑っていると和香様が説明してくれた。


「先達て祐二君がAIとちゃうってゆうてたやろ?それでうちがそれを否定したねんけれども覚えてる?」


「はい…」


「それでな、うちが最初に逢うた時に、一体君らは何やのん?って聞いたら、あの子ら自分らのことを三位一体でHNI(ハーフナチュラルインテリジェンスってゆうたんよ」


「はぁ」


「それでなあ、うち、あの子らが説明してくれた時に、略した頭のHを発音せんかったら『ニーッ』って、まるで猫みたいやなってゆうてしもたんよ。そうしたらなんや気に入ってしもうて、自分からあの形になりおってん」


「何じゃ和香、そなたが事の発端か?」


雨子様が今度はあきれ顔では無くて、本当にあきれ果てて和香様のことを見ている。


「ほれ、そこな猫。頭だけではなんとも居心地が悪い、ちゃんと体も作らぬか?」


 流石雨子様というか何と言うか、まったく臆することも無く相手に意見をしている。

だが相手は機嫌を損ねること無く直ちに雨子様の意見に従うのだった。


 最初に見た時はかなり大きな猫の頭だと思ったのだが、それに見合った体を生成すると、ちょっとした猛獣並の大きさになった。


「これ本当に大丈夫なの?」


僕が恐る恐る聞くと和香様が笑った。


「無論やで祐二君。この子等がこちらに対して意識無意識にかかわらず、害を及ぼしうる動きをとった時点で回廊が切断されるし、あちらにあるインターフェースとやらは消滅するようになってるからね。でもそう言うことでも無い限りは、ほらこっち来てみ」


 そう言うと和香様はひょいとその猫に触れて見せた。

ただの3D映像化と思っていたら、どうやらそんなものでは無く、相互に触れることすら可能なものであるらしかった。


「ほう?この手触りは何とも…」


 いつの間に近づいたのか雨子様は、その巨大な猫の頭を撫でている。かと思ったら両の手でモフモフしている、大丈夫なのか?

 ああっ、雨子様!巨大猫の首っ玉に抱きついた。


「おう!これはたまらんの」


 今度は逆に和香様がドン引きである。


「あの、雨子ちゃん?それほんまに大丈夫なん?」


 そう言われた雨子様は、ふかふかとした猫の毛皮の向こうから和香様に返事を返す。


「和香よ、そなたが大丈夫じゃと言ってくれたのでは無いのかえ?」


「いや、ま、そうやねんけどな。でもいくら何でも初っぱなからそこまで行くとは思てへんやん?」


和香様はそう言うと嫌々をするように頭を振っていた。


「因みにな祐二君、こっちのこの状態やと触れることが可能やねんけど、あの子らが実際居る方では立体的な映像があるだけなんよ」


「え?そうなんですか?でもなんでまたそんな事が出来るようにしたんです?」


僕がそう聞くと和香様の様子が急におかしくなった。


「なんでってゆうたらな、そのな、あのな、ソナイニシタラオモシロイントチャウカナッテオモタンヨ」


「あ~なるほど。要するに和香様はそんな風にしたら皆が驚くのじゃ無いかなって思った訳なんですね?」


 もしかすると和香様は、小声で話した部分は雨子様に聞かせたくなかったのじゃ無いだろうか?ぎぎぎぎっと音のしそうな感じで雨子様の頭が、和香様の方へ向くと…。


「わ~か~?」


これまで聞いたことの無いような低い声が雨子様の口から発せられた。


「ひぃ~かんにん」


 そう言うと和香様は首をすくめ頭を抱える。

それを見て苦笑する雨子様。


「別に叩きはせんは。しかし昔からそなたは悪戯好きじゃのう?」


「怒ってへんのん?雨子ちゃん?」


 恐る恐る雨子様のご機嫌を伺う和香様。あれ?でも和香様の方が大神なんじゃ無かったっけ?


「昔のことなんじゃがな祐二、こやつ面白そうと言うだけで、いっとき地球に降り注ぐ太陽の光を隠しおったことがあったのよ」


「うわ~~~って、それってまさか天岩戸伝説の元ネタ?」


「むぅ、我らの間では良く分からぬが、そなた等人の間ではどうもそのようじゃの」


「うわぁ、和香様それとんでもない…」


 雨子様と巡り会ってから色々なことがあったので、少々のことでは驚かないくらいの気持ちだったのだけれど、流石に今回のことにはあっけにとられてしまった。

天岩戸伝説のきっかけを作ったご本人がここに居るとは…。


「うわ、と言うことは和香様ってアマ…」


和香様のまたの名を全て言う前に、雨子様の指が僕の口を閉じた。


「良いか祐二、例え皆が知っている名であったとしても、神の前で真名を口にするでは無い。勿論本当の真なる真名はまた別にあるとは言うものの、一応我らはそれを忌みとしておるのでな」


「はい…」


「因みにの、その時怒り狂った神々によって我は和香の目付にされた…」


「あ~~そう言うご関係で…。だから和香様時折雨子様に頭が上がらない感じがしていたんですね?」


「へ?うち、そないに見えとったん?トホホホ」


何とも情けなそうに言う和香様の姿に、僕と雨子様は吹き出してしまった。


 そこへうっかり?部外者に成り果ててしまったものから、おずおずと言葉が発せられたのだった。


「そろそろ私達も話をさせて貰って良いだろうか?」


 はっと気が付いて振り返ると、大きな猫が困惑しきった表情でこちらを見ているのだった。



あんまり人の迷惑になるような悪戯はお勧め出来ませんよねえ?

ね、和香様?

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