雨子様の提案
今回は少し短いです。これからどんどん神様は祐二の生活の中へと入り込んできます
「ところで雨子様もご存じのこと思いますが、僕は学生です。」
「うむ、高校生とか言うものであろ?」
「はい、ですから毎日かなりの時間学校に行かなくてはなりません。その間雨子様はどうなさるおつもりですか?」
すると雨子様は満面の笑みを浮かべた。
「そのことについてはそなたの母御と話をして解決策を見出したと思うて居る」
「解決策?」
「むぅ。我はそなたの母御の姪としてそなたの高校とやらに入るつもりなのじゃ」
僕は思わず素っ頓狂な声を出した。
「姪?入学するだって?」
嫌々嫌々一体全体それは無理だろう?第一こんなに前時代的な喋り方しか出来ない上、人間社会についての多くの情報が欠落している雨子様が、いきなり高校に行ってそれが成り立つわけがない。それに種々の証明とか一体どうするのだ?
「む、無理ですよ雨子様」
「何故じゃ?」
平然と雨子様は聞き返してくる。
「第一入学するにはそれなりの色々な書類がいるし…」
雨子様はくっくと笑って見せた。
「そのような人が目を使って確認するようなものなぞ、いくらでもこさえて見せようぞ」
「!」
僕は思わず絶句してしまった。なるほど雨子様がそう言うのならそうなのだろう。ならば言葉は?その他の知識はどうなのだろう?
しかし雨子様は僕が聞く前にそのことについて答えてきた。
「後はそなたら人の仲間に入って暮らすための諸々の知識じゃの?」
「うむむむ」
神様相手だとこんな感じで物事の回転が速くなるのだろうか?
「ともあれまずは明文化された知識が先かの」
そう言うと雨子様は僕の部屋の中を見渡した。そして本棚の本を見つけると手に取った。
「これが今の世の本と言うものじゃな?」
僕は黙って頷いた。
「昔は…」
そう言いながら雨子様はぺらぺらとページをめくった。
「…もっと薄っぺらじゃったし、書き写す者によってうねうねとした字が異なっておって読みとるのに苦労したものじゃった。しかしこれなら随分楽じゃの」
そう言いながら雨子様は次から次へと本を手に取った。
「ん?この本は、こちらの本と…」
そう言いながら先に一端手放していた本を再び手に取っていた。
「同じ事柄の説明のはずが内容が異なっておるぞ」
僕はぎょっとして雨子様が手に持っている本を見た。内容云々はともかく、雨子様は持っただけで中身が分かるというのだろうか?
雨子様にはそんな僕の仰天した気持ちが分かったらしい。
「何じゃ祐二、その鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔は?思うにこれかや?」
そう言うと雨子様は手に持った本を指さした。僕はぶんぶんと音がしそうなほどに頭を振った。
「むぅ、こうやって何かを読みとるくらいは我らにとって児戯にも等しいことじゃ。問題はそれを自身の知識とどう関連づけて行くかということじゃな」
まあ確かに相手は神様なのだから、こんなことくらい出来ても当たり前なのかも知れない。しかし目の前にいる雨子様は美形とは言えごくふつうの女の子に見えるだけに、このような形で神様としての能力を披露されると、何とも言えないギャップを感じてしまった。
「ともあれまだまだ未成熟な科学技術や言語体系のことを考えると、この程度の誤謬は仕方のないことか」
雨子様はまるで独り言のようにつぶやきながら、再び次から次へと本を手にとって行った。
およそ小一時間もたったろうか、僕が持っている参考書や辞書の類はおよそすべて終わらせ、その他の色々な本を読破?している。その雨子様がふと手を止めて僕を見つめた。
「のう祐二よ、人とは面白いものじゃな」
「?」
僕が目顔で問い返していると雨子様はくすくすと笑った。
しかしいきなり人とは面白いものじゃなと言われて、一体僕はどんな顔をすれば良いというのだ?
だが更に問い返すことはなくとも、その答えは自然に雨子様からもたらされた。
「いくら子孫繁栄のためとは言え、人たちの恋とやらにかける情熱は並々ならぬ物があるの。なにやらそのことに感心してしまったのじゃ」
何を言い出すかと思ったらいきなり子孫繁栄?恋?それこそどう返答して良いか答えに窮してしまう。
目をきょろきょろさせながら思いを巡らせている僕のことが、雨子様にはたまらなくおかしかったのだろう。口元を押さえてころころと笑い出した。
しかし不思議と笑われても腹は立たなかった。どうしてだろう?雨子様が笑うとその場の空気がとても暖かくなるように感じる。心の中から何とも言えない温もりが立ち上ってくるように思う。
有る意味これこそが雨子様達を神様たらしてめている一つの大きな要因ではないか?そんなことを思ってしまった。
「さて夜も更けてきたの、そろそろ休むべき時間じゃな。じゃがその前に少しばかり母御と相談してくるとするか」
そう言うと雨子様は優雅に歩を進め、部屋から出ていった。
はてさて、雨子様はこれからどんな風に人間生活に馴染んでいくんだろう?