雨子様のララバイ
筆者は、一日が終え平和な思いで床につき、安らかに入眠する一時が好きです
なので夜遅くになってからは難しいことを考えないようにしています。
風呂を終えて部屋に戻ってくると、雨子様も既に宿題を終え、布団の上でころりと寝転んでいた。
「何とも忙しい一日であったの」
今という時間だけを切り取ってしまえば、普段の日と何ら変わりが無い時間の流れなのだけれども、思い返すと確かに雨子様の言う通り、とてつもなく色々なことがあった、そんな一日だった。
「雨子様もお疲れ様でした」
「祐二もの」
そう言いながら雨子様は枕を抱きしめている、その様が何とも愛おしげで幸せそうだ。
その姿を見ていた僕はふと思ったことがあり、雨子様に聞いてみた。
「雨子様って誕生日ってあ~~無いですよねえ」
聞きながら思考が進み、結論に自ら到達してしまった。
「そうじゃな、そなたら人の暦が意味を持つよりも遙か昔なのじゃから、意味が無いと言えば無いの」
「でもそれってちょっと寂しいじゃ無いですか?」
「そう言うものなのかや?」
「僕達人間は親しい者同士誕生日を祝うというのは半ば慣習化していますから、雨子様だけそれが無いというのもなあ」
「むう、ならば我がそなたの許で人の身を得た時にすれば良いのではないかや?一応学校に提出した書類にはそう記載しておいたの」
「なんだ、それならちゃんと誕生日あるんじゃ無いですか」
「確かにそうじゃな、がしかしどうして今更そのようなことを言うのじゃ?」
僕は少し照れながら頭をかきかきその答えを述べた。
「いえね、今見ていたら雨子様、何とも大切に可愛がるようにして枕を抱きしめているから、誕生日にプレゼントとして縫いぐるみでも上げられたら良いかな、なんて思ったものですから…」
そう言うと雨子様は、抱きしめている枕に目をやり顔を赤らめた。
「そなたは妙なところに目が行き、妙なところに気がつき居るの?」
そう言いつつ雨子様はころりと転がって背を向けた。
「初めて会った時の祐二は小さくてほんに可愛わゆうて、きっと抱きしめ甲斐の有る童であったろうな?」
「え?え?僕ですか?」
「そうじゃそなたじゃ。いつの間にやらこんなに大きゅう成ってしまい居って。そんな成りでは可愛がってもやれん」
そう言いつつ再びこちらを向いた雨子様は何となくむくれている。
「いやそんなことを僕に言われても…」
「もう寝る!」
僕の答えが気に入らなかったのかどうか、どうにもその辺りのことが理解出来なかったが、雨子様は僕にまた背を向けたかと思ったら寝る体制に入った。
仕方なく僕も灯りを消すと、ベッドに横たわり目をつぶった。
やっぱり今日一日色々なことがあったお陰で、瞼が重くなるのが早い。
そしてほとんど夢の世界に入った頃だろうか?誰かがそっと頭を撫でるのを感じた。
一体何だろうと思いつつも、もう加速度の付いた眠気は、意識を現実の世界へ戻そうとはしてくれない。
ただその誰かが呟く言葉だけが、微かに耳の奥に残り、僕の脳裏に焼き付けられていく。
「本当にこんなに大きくなり居って…」
ベッドの傍らに腰掛けた雨子様は、そう呟くと緩やかにそっと僕の頭を撫で続けるのだった。
今日もまた拝読頂きありがとうございます。
今日のお話は閑話的なものだったので少し短めであることご容赦下さい




