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天露の神  作者: ライトさん
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宵闇の中の話し

穏やかな日常回で有りますね。でもそう言った日常があるからこそ人は暮らしていけるわけで、毎日波瀾万丈なことばかりだと、多分私など二三日で儚くなってしまうことだろうなあ

 公園で結構長い間なにやら話をしていた二人だったが、それも得心いくまで話し終えたのだろう。急ぎ足でこちらに戻ってきた。


 七瀨は相変わらずって言う感じだったが、雨子様の様子がなんだか妙に違和感を感じる。


「雨子様、何かあった?」


「い、いや、何も無い」


 そう言いながら雨子様の視線が僅かに泳ぐ。一体何で?

僕は雨子様の僅かではあるが不可解な挙動に首をひねった。


「ところで七瀨よ」


「なあに雨子さん?」


「我はその、そなたのことを七瀨では無く、あゆみと呼びたいように思うのじゃが、構わぬか?」


 一瞬ぽかんとした七瀨だったが、まじまじと雨子様の顔を見た後、破顔した。


「なんか嬉しぃ!雨子さんにそんな風に言って貰えるなんてなんか特別感有る!」


「そ、そうなのかや?」


「でもどうして急に?」


「どうしてかと言われても我も今ひとつ良く分からんのじゃ。ただの、何故かそうした方が良いというか、そうしたいというか…」


 等という二人の会話を聞くに、なんだか雨子様と七瀨、急に二人の間の距離感が短くなっている。まあ仲が良いことに越したことは無いのだけれどもね。


 そうこうするうちに七瀨の家に辿り着く。


「ただいま~」


未だ七瀨の母親は帰ってきていないのか家の中は真っ暗だ。


「お茶でも飲んでいく?」


とは七瀨。七瀨は割と寂しがりなので、こう言う場面で良く引き留め工作をする。


 だが携帯の時間を確かめると結構な時間になっている。公園での寄り道が結構時間を食ってしまったようだ。


「あまり遅くなってしまっても家で心配するから今日は帰るよ」


僕はそう言いながら七瀨にユウを引き渡した。

 

 七瀨の肩に乗ったユウは早速彼女の頬にすり寄って甘えている。

 

「ん、了解。帰りに自分でも言ったんだけど、祐二からもおば様にありがとうございましたって言っていたこと伝えてね?それととっても美味しかったって!」


「ああ分かったよ、それじゃあおやすみ」


「おやすみなさい」


「またの」


 そう言うと僕と雨子様は来た道を戻り始めた。

暗い夜道にぽつぽつとある街灯。街灯のあるところは何とか明るいが、その中ほどは結構くらい。


 雨子様のお陰で今の僕はそう言った暗闇でも全く動じることが無くなっていた。

当時のことを思えば良くここまで平気になったものだと今更ながらに思う。


「雨子様のお陰だなあ」


何となくその時の思いを口にした。


「なんじゃ祐二、いきなり?」


 隣を歩く雨子様がどうした?とばかりに僕の顔を下から覗き込む。

いや雨子様、それは心臓に悪いって。雨子様のような女の子が上目遣いで見上げるのは破壊力が大きすぎると思う。


 少し動揺しかけたが多分表情には出なかったと思う。


「昔未だ蜘蛛の悪夢にうなされていた頃のことをふと思い出したんですよ」


「なるほどの、あの頃の祐二はまこと頑是無い童であったの」


 そう言うと雨子様はにやりと笑う。


「今はもう寝小便などせぬのか?」


僕は思わず吹き出した。


「酷いなあ雨子様。いくら何でも僕ももう高校生ですよ?」


「確かにの、じゃが我にとっては未だ昨日のことのように感じるのじゃ。それがいつの間にやら斯様に大きゅう成り居って…」


雨子様が手をさしのべて頭を撫でようとするので僕は逃げ出した。


「これ逃げるでない」


なおも雨子様が追いかけてくるが、僕は上手く身をかわし続けていた。


「ところで雨子様、七瀨と何を話していたんです?話せないようなことだったら良いんですが…」


「むう、まあ大方のことは話せんの」


「そうですか…」


「うむ、じゃが少しだけなら…、あゆみは…」


「あゆみ?どうしてまた急に?」


僕が聞くと雨子様は苦笑しながら言う。


「なんと言うかそのう、あやつと仲良うなったが故のことじゃ」


「そんなの前からじゃ無いのですか?」


「また更に仲良うなったということじゃ」


「なんだか良く分からないなあ」


「うむ、この件については分からんでも良い。それはともかく先ほどの話じゃ。あゆみは夕食後の話の内容に不足を感じて居ったらしい。それについて更に突っ込んで話を聞いてきおった」


「それで詳しく話して上げたんですか?」


「そうじゃな、話さざるを得なかったと言うべきかの?我やそなたが死の直前まで行ったことについては些かショックを受けておったが、こうして二人とも元気な姿を見せて居る分、大事には至らなかったようじゃ」


「良かった…」


そのあと二人でとりとめの無い話をしながら歩いていると、直に我が家に帰り着いた。


「ただいまぁ」


「お帰り、ちゃんと送り届けてきた?」


「当たり前でしょ?」


僕が少しふくれっ面をして言うと、母さんは雨子様の方に視線をずらせた。


雨子様は笑いながら首肯してみせる。


「お風呂、もうあなたたちだけだからさっさと入ってしまいなさいな」


「雨子様、良かったらお先にどうぞ」


「うむ、では先に頂くとするか」


 そう言うと雨子様はすたすたと風呂場に向かって行った。

僕はその後ろ姿を見送った後自室に戻った。七瀨に貰ったプリントを確認し、宿題に手をつける。


 暫く目の前にある課題に集中していたら、軽やかに階段を上がってくる足音がした。


「お先じゃった。む?それはなんじゃ?」


「ああ、今日七瀨が持ってきてくれたプリントの中にあった宿題だよ。一応提出期限は明日までだからやっておかないとね」


「むう、学校とやらはなかなかに面倒くさいところであるの。しかし我もやらねばならんの」


 そう言うと雨子様は自分の受け取ったプリントの束を引っ張り出して来た。

普段は葉子ねえの勉強机を使っているのだけれど、今日は当人が居て既に寝ているようなので小さなテーブルを引っ張り出してこの部屋でする。


 静まりかえった部屋の中でかりかりと筆記具の音だけが微かにしている。

これって隣で神様が僕と同じ宿題をしているんだよな?なんだかちょこっとシュールな気がしてしまう。


 暫しの時が流れ、課題をやり終えた僕は風呂に向かうことにする。

肩越しに覗き込むと雨子様ももうあと僅かのようだ。


「じゃあお風呂行ってくる」


 小さくそう言うと雨子様は無言で顔を向けずに無言で頷いていた。

その時見せた髪をかき上げる仕草がとても綺麗だなと思ったのはここだけの話だ。





少しずつ自分の思いの変化に気がつきつつある雨子様。この先彼女はどう変化していくのだろう?

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