「初詣三」
お待たせしました
冷たくなっても美味しい唐揚げ、そういう趣旨で作られた唐揚げなので、冷えてから持っていっても十分に和香様達に楽しんでもらえる。
それについてはなんの問題も無いのだが、いくら何でも唐揚げの匂いをぷんぷんさせながらというのは、さすがに憚れると思った節子、十分に冷まして露がつかないようになってから、丁寧にパッキングするのだった。
準備万端支度を調えたところでそれを祐二に持たせ、いよいよ吉村家の面々は初詣に向かうべく家を出る。
さてそうやって家の玄関を出、そぞろ歩きをしながら駅にへの道を行くのだが、そこにはまた色々な物語があるのだった。
特に晴れ着を着て歩くとなると、普段着慣れていないだけ有って、色々有るはずなのだが…。
そこは雨子様のこと、直ぐに上手く歩を進められるようになる。
しかし例えそうであったとしても、それは表に出さず逆にそれを理由に、祐二の腕にきゅっと掴まりながら歩くのだった。
勿論祐二のこと、そんなこととっくにお見通しになっているのだが、それでも嬉しそうにしている雨子様のことを見ていると、何も言わずに支えながら歩みを進めるのだった。
一方もう一人の晴れ着の主の令子は、節子と拓也の間に挟まれるようにして両手を掴まれている。そして何とも照れくさくて仕方が無いような顔つきで、時折込み上げる笑みを一生懸命に堪えているのだった。
さすがに駅に着くと結構な人出で、混み合う列車の中では、自然雨子様を庇うような位置取りをする祐二。令子はと言うと節子と拓也の間に挟まれて、もう夢見心地なのだった。
昨今の様々な出来事により、宇気田神社の最寄り駅ともなると、それはもう凄い人波で、家族が一塊になっていくことすら危ぶまれる、そんな状況なのだった。
なのでそれまで、ふりで祐二の腕に掴まっていた雨子様も、今では本気になって掴まるようになっていたし、節子や拓也は真剣に令子のことを守るようにして歩いているのだった。
「大丈夫令子ちゃん?なんだったら抱っこしようか?」
心配してそう声がけする拓也に、顔を赤くした令子が断りの言葉を口にするのだが、節子の鶴の一声でそうも行かなくなるのだった。
「令子ちゃん、恥ずかしいかもだけれども、さすがにこの状況だから抱っこして貰いなさい」
非常に多くの警備員があちこちに配され、効率よく人の動きを整え、安全であるようにと配慮はされているのだが、それでも想像以上の人手で、節子の言葉が正解と言わざるを得ないのだった。
例の龍像との戦い以降、世界的にこの地は聖地のような形で認識されつつあるので、致し方ないことであるとも言えるのだが、地元の人間としては何とも歯がゆいことでもあるのだった。
それでも何とか無事鳥居を潜り、神社の参道に行き着くのだが、寒風吹きすさぶ厳寒期であるにも拘わらず、その寒さをも感じさせないほどの熱気と言えば分かるだろう。
まさにとんでもない人また人の列なのだった。
「こりゃまたとんでもないなあ」
令子を抱えながら人の動きに合わせて少しずつ歩みを進める拓也、呆れたような口調でそう言葉を吐く。
「本当ね、さすがにこれじゃあ美代を連れてのお参りとかは、よした方が良さそうね?」
「…だなぁ…」
「大丈夫?雨子さん?」
祐二も雨子様のことが心配になり、そう声を掛けるのだが、さすがの雨子様もこの人混みには困惑しているのだった。
「いやもう大丈夫も何も…」
後ろを歩く拓也達三人のことを振り返り、いやはやと首を横に振り始めてしまう。
その雨子様、隣で祐二のことを見上げながら問うてくるのだった。
「さすがにこの状況、ちとばかり呪を使って隙間を開けようかと思うのじゃが、かまわんかの?」
「隙間ってどれくらい?」
念のため聞いてみる祐二。
すると祐二の思いが分かるのか、笑いながら返す雨子様。
「せいぜい押されぬ位の隙間じゃ」
そう言いながら手を掲げ、人差し指と親指を使って僅かな隙間を作ってみせる雨子様。
「なら良いんじゃない?」
祐二の同意を貰った雨子様、節子達に向かって声を掛ける。
「お母さん、もう少しこちらに寄れぬかや?」
人に押されて少し離れ気味だった節子達に声を掛けると、拓也の奮戦もあって何とか無事合流を果たす。
そのタイミングを見計らっていたのか、雨子様が素早く小さな声で何事か呪を唱える。
端で聞いていると、まるで音声を早送りをしているように聞こえるのだが、それはさておき、無事家族を一つの塊として成り立たせることに成功する。
お陰で彼らの周囲では、その塊対周りといた感じで圧の分散と収束が行われるのだった。
途端にそれまでの息苦しいまでの圧迫感が軽減される。
「あら?」
節子はそう言いながら辺りを見回す。周りは相変わらずの人混みなのだが、自分達に掛かる圧力が殆ど無くなった感じなのだった。
「お?これなら令子ちゃんも降りて歩けるかな?」
そう言いながらそっと下に令子を降ろす拓也。無事降ろされ、独り立ちして少しほっとしながら周りを見回す令子、にっこり笑みを浮かべながら言うのだった。
「ありがとう、お父さん。これなら大丈夫よ?」
令子にお父さんと言われた拓也、嬉しそうに顔を顰めながら明後日の方向を向き、頭を掻くのだった。
「本当に恥ずかしがり屋なんだから…」
そう呟く節子、でもそんな夫のことをとても好ましく思っているのだった。
さてそうこうする内にようやっと拝殿の前まで辿り着き、賽銭箱にお金を入れた後、二礼二拍手一礼。参拝を終えた所で拝礼する列から脇にずれる祐二達なのだった。
と、そこに巫女らしい女性の姿が駆け寄ってくるのだった。
「へ?笹姫さん?」
それを一番初めに見つけた祐二が、素っ頓狂な声を上げてその名を呼ぶ。
「なんじゃと?」
とは雨子様。
「何故に笹姫がこの地に居るのじゃ?」
と笹姫に問いかけるのだが、悠長にその言葉を待てるような人の数では無い。
「どうぞこちらに…」
という笹姫の言葉に従って、家族で固まって移動していく祐二達なのだった。
そうやって移動して脇道に入り、裏から本殿の中へと案内されると、そこでは小和香様が待ち受けているのだった。
「お久しぶりで御座います皆様」
吉村家の面々が頭を下げるよりも先に挨拶をする小和香様。
「こちらこそお久しぶりです小和香さん、そして明けましておめでとう御座います」
いち早く立ち直りそう挨拶を交わす節子。
その後を受けるように雨子様が問いの言葉を発する。
「それで小和香よ、何故に此処に笹姫が居るのじゃ?」
だが小和香様、直ぐにその問いに答えようとせずに、まずはと皆を控え室の様な所に案内するのだった。勿論そこには笹姫も同道している。
「まずはこちらでおくつろぎ下さい」
そうやって皆に着座を勧め、一端姿を消す。
そしてさしたる時間も経たぬ内に、茶器を以て現れたかと思うと、丁寧に茶を注ぎ、皆に配するのだった。
「それで笹姫さんなのですが、既に御存知のように生き馬の目を抜くようなこの人手、当社と致しましてはもう猫の手も借りたいような状況なのでございます。そこで和香様の即断で晦日々(みそかび)の内にお二方揃ってこちらにお出で頂き、お手伝い頂いている次第です」
それを聞いた雨子様、小和香様と笹姫の顔を交互に見比べ、挙げ句納得した顔で言うのだった。
「まあこの人手であればさもあらんじゃな」
そう言うと笹姫に向かって言うのだった。
「すまぬの笹姫、未だ今の世に馴れることも出来ぬ内にこの始末。何とも申し訳ない」
すると笹姫、慌てて頭を下げながら言うのだった。
「とんでも御座いません雨子様、卑小、私のような者で事足りるのでありましたなら、いくらでもお使い下さいませ」
そう言ってにっこり笑んでみせる笹姫に、尚も問う雨子様。
「しかしどうやってこちらに参ったのじゃ?まさかいきなり新幹線や飛行機と言うこともあるまいて?勿論誰かが迎えに行けば別ではあるが…」
すると笹姫、少し嬉しそうに笑みを浮かべながら言うのだった。
「それが雨子様、次郎太さんが既に空路の道行きを御存知でしたので、二人揃って龍となって飛んで参りました…」
「なんとまあ…それで今次郎太はどうして居るのじゃ?」
少し呆れた風にそう問う雨子様。
「それが今は榊様の下につきまして、、色々なお手伝いを習って居る所で御座います」
「ほう…」
そう言いながら笑んでみせる雨子様、うんうんと頷きながら言うのだった。
「まあの、習うよりは馴れろ…じゃな?」
「仰る通りで御座います」
笹姫はそう言うとにっこりと微笑んでみせるのだった。
「まあともあれ、側に小和香がついていてくれるのであれば心強いの」
そう言う雨子様に、小和香様は苦笑しながら言うのだった。
「それがもう逆に助けられてばかりなのです。思うに笹姫ならばそう時間も掛からず今の世に馴れられると思います」
それを聞いた雨子様、ほっとした顔つきになって言うのだった。
「おお、それは重畳…。して次郎太は?」
すると小和香様、ふっと笹姫と顔を見合わせると、少し間を置き言葉にするのだった。
「それがその、和香様のおっしゃるには、ぼちぼちやなあ…と言うことで御座います」
「そうか、ぼちぼちか…」
そう言って雨子様も、さもあらなむと言った表情になるのだった。
と言うことで思い見かけぬ笹姫の登場となりました
やっぱ笹姫は対応力が高いなあ
一方次郎太は(^^ゞ
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