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天露の神  作者: ライトさん
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七瀬家への帰途

毎日当たり前の暮らしを続けていると、その日常の中での微細な変化になかなか気がつけなかったりします。それが有る時急に目について、え?と驚く時なんかが有ります。適うならそんな小さなことなんかにもきちんと気がついて、しっかりと味わいたいものだなと、最近よく思いますね

そうそう、今日はひな祭りで有りますね


「遅くまでお邪魔しました」


七瀬のその言葉をきっかけに食後の団欒はお開きになった。


「祐ちゃん、あゆみちゃんのこと家まできちんと送ってきて上げてね」


とは母さん。それはもう言われるまでも無い。

そこへ雨子様が追いかけるように言葉を紡ぐ。


「腹ごなしじゃ、我もついて行くが良いな?」


良いなも何も雨子様のそう言う言い方だともう決定事項なんじゃ無いのかな?


「祐ちゃんがいるから大丈夫だと思うけれど、みんな夜道は気をつけてね」


 七瀬が玄関に移動するとともに、送って行く者も移動。更にはそれを見送る者も後を追った。


「葉子お姉さん大事にして下さいね?」


 七瀬が葉子ねえの体を気遣う。その肩の上では小雨とユウが何やらけんつくばって意地を張り合っているように見える

雨子様にあれほど言われたのにもかかわらず、どうやらまだどちらが上のどうのこうのとやり合っているようだ。


それを見ていた雨子様が一喝。


「そなた等は作り手たる我に恥をかかせるつもりなのかえ?そんなに気に食わぬのなら一端霧散させて他の者としてまた生み出すがそれでも良いのかの?」


あ、此は雨子様本気で怒っている。


「わわわ、ごめんなさいごめんなさい、もうしません」


とはユウ。クマのドロイドが元の茶の色で無く、少し青白く見えるのは気のせいだろうか?


「ごめんなさい!小雨ぇはまだ生まれたばっかりなの、お願いでしゅからどうか雨子しゃま勘弁して下さいなのでしゅ」


小雨の方はびびってわなわなと震えている。


と、それを見ていた彼らの主達の方が心配になったのか、雨子様に頭を下げた。


「ごめんなさい雨子さん、私からもちゃんと言い聞かせますから、どうかユウのこと許してくれませんか?」


同様に葉子ねえも


「私からもお願い雨子さん。それにこの子のこと、私、もの凄く気に入っているの。小雨のこともしっかりと育てていくようにするからどうか許して上げて下さいな」


二人の願いをしっかと聞いた雨子様は寸時考え込んだ後返事をした。


「小童どもよ、聞いたかそなた等の主の嘆願を?本来の有り様としては全くの逆のことじゃぞ?主がそなた等の助命を嘆願していかがする?そなた等が主の命を守ることこそがその役目では無いのか?」


そう雨子様に諭された二人はしゅんとしょげかえっていた。


「まあ良いは、今回に限り許す。それぞれ主によく感謝することじゃ」


 そう言うと雨子様は真っ先に靴を履き、玄関から出て行った。僕も慌ててその後を追う。


 日が暮れて僅かに涼風の立ち始めた夜の闇を雨子様は伸びをしながら満喫している。

玄関外の明かりが横から雨子様の顔を照らす。その口元がにっと上がっているのが見える。


「雨子様もしかして…」


僕がそう言いかけると。雨子様がそっと人差し指を立て口元に置いた。


「しっ、内緒じゃぞ祐二。我はあの程度のことでは怒っとらん。しかし何事にもけじめが必要じゃ。特に彼奴らにはついつい調子に乗りやすいところがある。最初の一針は後の三針を補うというからの。此は此で良きことじゃ」


 何となくそうじゃないのかなとは思っていたのだけれども、やっぱりそう言うことだったのか。雨子様らしいと言えば雨子様らしいのことなのかも知れないなあ。


「ごめん、おまたせ」


そう言うと七瀬が玄関から出てきた。最後に成って母さんや葉子ねえとの話が長引いたようだ。


「ごめんね、わざわざ送って貰って、雨子様も」


「良い、我は腹ごなしじゃ」


「じゃあいくか」


 僕がそう言うと三人並んで七瀬への帰路を辿った。


 夏は過ぎ去ったはずなのに日中の熱気はまだ往時を偲ばせる。それがこの時刻になると大分和らいで、時折風も吹いて歩くことが苦に成らない環境になっていた。


 僕はここ数日のことを思い起こしながら寡黙に歩いていたが、女の子達二人は和気藹々と何やら話をしながらそぞろ歩いていく。


 こうしてみると雨子様もすっかり普通の女の子のように見える。


 この帰路の途中にはちょっとした小さな公園があるのだが、そこまで来た時点で七瀬からの願いがあった。


「雨子様少しだけ話がしたいの、公園によっても良い?」


 急に真面目な顔つきになった七瀬の様子にも関わらず、雨子様は当然であるかのようにその思いを受けた。


「良いぞ七瀬、因みにユウよ、そなたはちと祐二の元に居るのじゃ」


するとユウが口を尖らせる。


「ええ~~、雨子様、僕は主の守人ですよ?守人が離れるのは不味いんじゃ無いですか?」


 確かに理屈はユウの言う通りだった。

しかし雨子様はユウのその言葉を軽く一蹴した。


「構わぬ、この一時は我が側に居るが故、七瀬の身の安全は我が保証する。心配せずとも良い故、暫し我の命に従え」


「わかりました」


とユウは言ったものの、まだ少し不満げだ。けれどもそれを飲み込むだけのものを持っているらしい。


「祐二、そなたも済まぬが暫しここで待っていてはくれまいか?」


僕は苦笑しながらも即答した。


「うん、そんな気がしていたんだよ。構わないから行ってきて」


 そう言うと二人はゆっくりと歩きながら、公園中央にあるブランコの所へ行った。

初めてブランコの実物を手にした雨子様は恐る恐るそれに腰を掛ける。


 その雨子様に七瀬が何か話しかけると、同じブランコに七瀬が乗り、立ち漕ぎでゆっくりとゆらし始めた。

最初強ばっていた雨子様の相好が崩れる。


 さてその後どんな話がなされていたのか?残念ながらここからは聞こえなかったし、聞こうとも思わなかった。

そう、女の子には女の子の話が有るものだ。こう言う時は関わらずに大人しくして置いた方が大抵の場合正しいのだ。



昨日は梅の花を見てきました。桜の花ほど賑やかさは無いのだけれども、馥郁とした香りは素晴らしいものが有りました。でも寒かったです

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