「初詣二」
お待ち遠様でした
神社の境内で唐揚げが売られているくらいならと、結局節子特製のピリ辛唐揚げがいくつか作られることになった。
お節料理とか言う保存食品が何故作られるのかという趣旨からすると、どうなのかなと思われる節が無いわけでは無い。
けれども何をどう言おうとも、当該の神様が一番喜ぶ物を持っていくのだから、なんの問題も無いのでは無いか?それが吉村家で一致した意見なのだった。
普段の様にとんでもないような量をどっちゃりと作るならともかく、和香様と小和香様の御二柱分を作ると言うことなら、そう大きな手間にもならないし、節子なら鼻歌交じりに作ってしまうのだった。
さてそうやって唐揚げの用意が調ったところで、事前に通告されていた様に、雨子様と令子が客間の方へと引っ張って行かれる。
ぐいぐいと節子の手に引かれながらこれは一体どうしたことかと、顔を見合わせてしまう雨子様と令子。
だがその疑問が解かれるのも、そう時間が掛かることでは無いだろうと、苦笑しながら腹を決める雨子様なのだった。
「此処は火の気が無いから寒いわね…」
そう呟くように言うと、節子はエアコンのスイッチを入れる。
そう時間が掛からない内に部屋は暖まってくるのだが、それと共ににっという感じで笑みを浮かべる節子。
矢庭に手をわきわきさせ始めたかと思うと、いきなり雨子様をひん剥き始める。
「な、何をするのじゃ節子?き、気でもふれたかや?」
目を剥き慌てふためきながらそう言う雨子様。
一方令子は、何事かに気が付くことが出来たのだろうか、楽しそうに笑いながら「あ~~れ~~」等と言って囃し立てている。
「一体何事なのじゃ?」
何が何やらさっぱり分からない雨子様。自分が誰よりも信頼する者達の、全く以て意味不明なこの所業。訳が分からなくなって半分べそを掻きながらその場に蹲るのだった。
とそこへ、部屋の隅に置いてあった長細い包みを、大事そうに抱えた節子が綺麗な所作で正座する。そして包みを解きながら言うのだった。
「ほら立って立って雨子ちゃん」
もう後は野となれ山となれ、言われるままに立ち上がると、その雨子様に早速様々な衣類を着け始める節子なのだった。
「こ、これは?」
ようやっと混乱が収まりつつあるのか、状況を理解し始める雨子様なのだった。
「折角初詣に行くんだから、せめてもおめかししないとね。また葉子のお古で申し訳ないんだけれども、綺麗に着飾りましょうね、雨子ちゃん」
そう言ってテキパキ素早く着付けられて、あっと言う間に見事な振り袖姿になるのだった。
「お母さん、それならそれで言ってはくれまいか?何もいきなりひん剥いてしまうこともあるまいに…」
そう言いながら口を尖らせ抗議するのだが、目元は感動でうるうる。
以前も一度初詣の時に、振り袖を着付けてくれたことがある。
だからこれが如何に面倒なことなのか、実に良く見知っているのだった。それだけにまたもこうやって手間を掛けてくれる節子のことを考えると、つい自然涙が溢れてしまうのだった。
「雨子さん、はい」
そう言うと令子がどこから持ってきたのか、綺麗なタオルを雨子様の顔に押し当てる。
「折角の綺麗なお着物、汚したらまずいものね」
そんなことを言いながら雨子様の背中を優しく叩きつつ、心底案じてくれている令子。
「もう、もうもうなのじゃあ~~」
等と言いながら貰ったタオルに顔を押し当てている雨子様なのだが、順番で考えると今度は令子がひん剥かれることに。
再び「あ~~~れ~~~~」等と言いながら服を剥ぎ取られつつ、訳も無くくるくると回っている令子。
それを不思議そうに見ながらタオルの陰から問いかける雨子様。
「のう令子、先程も言うて居ったが、その『あ~~~れ~~~~』というのは一体何なのじゃ?おまけにくるくる回り居って?」
そんな雨子様に、手早く令子にも着付けを施しながら、呆れたような口調で節子が言うのだった。
「あのね雨子ちゃん。令子ちゃんが言っていたのはね、大昔の時代劇の中で、お姫様が着物を悪人に剥がれる時の様子を、パロディった物なのよ。正確には着物を着たお姫様が帯を引っ張られ、その反動でくるくる回りながら、悲鳴を上げるというシーンなのだけれども…」
「ほう…」
とは雨子様、何だか妙なことで感心しているのだった。
恐らく胸の内では後ほど、その資料を探してみようと考えているに違いない。
「それにしても…」
令子の帯を、きゅっと言う絹なりの音をさせながら、手際よく締め上げている節子が言葉を継ぐ。
「一体令子ちゃんはどこでそんな映画を見てきたの?」
するとその令子、少し恥ずかしそうな表情をしながら言う。
「あのねお母さん、実は私、前の生で時代劇が大好きだったの…って、お母さん、ところで私のこの着物はどうしたの?以前確かもう少し大きくなってからって言っていなかった?」
「それはそうなんだけれどもね、令子ちゃんの今も、今しか無いじゃない?なのに先送りするのもどうかなって思って、やっぱりお古で申し訳ないのだけれども、仕立て直したのよ」
その言葉に今度は令子がみるみる涙を溢れさせる。
その涙を雨子様が優しくタオルで拭って上げるのだった。
そんな二人のことを見ながら、節子は令子の肩に手を掛けると、目を覗き込みながら言うのだった。
「最近そんなのを見ている様子が無いのだけれども、もしかして我慢している令子ちゃん?だったら何も遠慮しなくても良いのよ?」
そう言うと優しく令子の身体を抱きしめながら、その耳元で言うのだった。
「そう、それくらいのこと何も我慢しなくても良いの。昨今時代劇専門チャンネルなんて言うのもあるみたいよ?」
すると呆然とした表情で節子のことを見つめる令子。
「あら令子ちゃん、知らなかった?」
猛然とした勢いで頭を振る令子。そんな令子に笑いながら節子は言うのだった。
「なら後でそのチャンネル、見ることが出来るようにしておくわね?」
それを聞いた途端に令子は飛び上がって喜ぶのだった。
着付けられたばかりの着物であろうとそんなことは関係ない。
「ひゃっほうぅ~~!」
そんなことを言いながら、天に向かって両手を突き上げているのだった。
そんな令子のことを見て笑いながら雨子様は言うのだった。
「あれで良いのかの?」
そう聞いてくる雨子様に、可笑しそうに笑いながら答える節子。
「良いのじゃ無いかしら?雨子ちゃんも何か無理して我慢していることがあるのだったら、ちゃんと言うのよ?」
すると雨子様は頭を横に振りながら言うのだった。
「我もその時代劇とやらに興味を持って居るのじゃ。じゃから令子と一緒に時代劇を見ようと思って居る」
「成る程ね、でも雨子ちゃんのその古風な喋り方、そっちの方から来ていたのじゃ無いのかしら?」
それを聞いた雨子様、束の間何事か考える風だった。
「うむ、言われて見たら確かにそう見えるかも知れんの。じゃがそんなことより今の我の興味は、先程の『あ~~~れ~~~』なのじゃ。どんな時代劇なのかわくわくして居るのじゃ」
「え?そっち?」
我が娘の思いもかけぬものに対する興味に、何とも驚き可笑しそうに笑う節子なのだった。
雨子様二度目の晴れ着着用ですw
読者の中に「あ~~~れ~~~~」を御存知の方、果たして居られるのだろうか?
ひん剥くと言った感じで若干過激ではありますが、雨子様主観としてそう感じられたという風にお取り下さい
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